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ゆる~いノリのトリップコメディ。
デンパンブックス様にて連載していたものの再掲です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「マジ無理」
思わず固まって呟いた私の顔を覗き込んだのは、金髪に青い目の美青年。
まるでおとぎ話に出てくる王子様のような……って、ホントに王子なんだけど。
「どうしたの? ミチル。ほら、早く魔法陣の上に乗って」
いやいやいやいや乗ったところで私には何もできないんですけど?
「……アーノルドさん、私がどこから来たのか、知ってるわよね?」
「ああ、“チキュウ”という星の“ニホン”とかいう国だろう?」
「そこと“ここ”がまっっったく違う国で、私のいたところには
魔法なんてものは存在しない、ってことも言ったわよね?」
「ああ、ミチルに魔力がないのはわかってるよ」
「じゃあどうして私は今この部屋にいて、あまつさえこんなキンキラキンの
魔法陣とやらの前で王家の祖霊だかなんだか得体の知れないモノを
召還するように迫られているのかしら?」
「だってそれは婚姻の儀式の一つだから仕方がないよ。
僕の妃になりたいと言ったのは君だろう?」
「だ、だからって、こんなの聞いてなーいっっっ!!!!!」
大声を上げた私、葉谷みちるは25歳、れっきとした現代日本のOLである。
何の因果か三ヶ月前、駅の階段から転げ落ちた私は、気がついたらここ――
スプリングランドというらしい、安易なネーミングの異世界に辿り着いていた。
そこを治めるのはサンルース王家。
自慢じゃないが、私は俗に“魔性の女”と言われる類の女である。
“キレイ”と“カワイイ”の中間に位置する男ウケのする容姿。
それに加えて、男をオトすための手練手管は中々のものだと自負している。
そんな私の信条は、「常に上を見ること」だ。
例え格好良くてエリートの彼と付き合っていても、いつ、どんな場所でも
「彼より上の男はいないか?」と注意を怠らず、自分磨きにも手を抜かない。
そして彼より上の男が現れたら、何の罪悪感もナシにそちらに乗り換えるのである。
悪女?そう言いたければ言いなさいよ。
私は自分の願望に忠実なだけ。騙される男の方が悪いのよ。
それに……今まで、新しいオトコに乗り換える時に古いオトコと揉めたことは、一度だってない。
それが密かにコンプレックスなのよね……。
どの彼も大抵、『君がそうしたいなら……』と、アッサリと去っていくのだ。
向こうも私に本気じゃなかったのかしら?
それにしては、付き合っている時に他の女の影なんて見えないし。
私って、隣に置いて表面的な付き合いをする分には良いけど、
執着するほどの魅力がない女なのかしら……?
「もしも引き止めてくれたら、この人に決めよう、って思うのに」
ひとりでに漏れた言葉に、こちらの世界に来る直前に起きた苦い出来事を思い出した。
~~~
その日私は、一年間付き合った彼と最後のデートをしていた。
新しい彼が現れたから、別れを告げるつもりだったのだ。
古いオトコの名は、森条暁(あきら)。元職場の上司である。
今まで一人のオトコと持って半年だった私が、
一年も彼と付き合ったのはハッキリ言って奇跡に近い。
元々上司と部下だった時から口げんかばかりで、私の男性遍歴やぶっちゃけ
本性も知っている彼に対しては自分を偽る必要がなく、居心地が良かった。
本性も知っている彼に対しては自分を偽る必要がなく、居心地が良かった。
対する新しいオトコの名は林原登吾。取引先の社長令息である。
暁は半年前に会社を退職し、約束されたエリート街道を捨てて独力で新しい会社を起こした。
その経営を軌道に載せるため、私と会う暇もないくらい必死で働いている暁と、
既に安定した社長の椅子が待機している登吾さん。
その経営を軌道に載せるため、私と会う暇もないくらい必死で働いている暁と、
既に安定した社長の椅子が待機している登吾さん。
私の信条に従えばいくら社長とは言え不安定な将来しか見えない暁を捨て、
登吾さんを選ぶのは当然のことだ。
だから、久々の逢瀬となったその日、暁に別れを告げよう……そう思っていたのだ。
「夕メシ何がいい?」
「う~ん、そうねぇ、イタリアンかなぁ」
「なら会社の近くのあの店行こーぜ。お前、好きだったろう?」
「えっ……あそこはイヤ!」
「……なんでだよ?」
「いいじゃない。会社の近くでもう何度も行ってるんだし。
今日は行ったことないお店に入りたいの!」
「……ったく、我がままだなお前」
会社の近くのイタリアンレストラン……Partenza。
――『俺じゃダメなのか?』
蘇ってくるのは、目の前にいるシブイ二枚目の低く響く声。
暁に初めて告白めいた言葉をもらったあの店を、
別れの思い出の場所なんかにしたくなかった。
別れの思い出の場所なんかにしたくなかった。
そのことに、暁は気づいていたのだろうか……?
私はこの時の自分の判断を、後々ものすごく後悔することになる。
「ほら、着いたぞ」
暁が連れて来てくれたのは、高級ホテルの中のレストランだった。
どうしよう、まさか部屋取るとか言われたら……別れるつもりで来てるのに……
「どうしたの? Sホテルなんて、奮発しちゃって。急に変更したにしては随分豪勢じゃない?」
内心の動揺を隠して、私は暁に軽口を叩く。
「まあ、最後くらいはな……」
暁がぼそっと呟いた言葉に驚いて、
「それってどういう……?」
と私が問い返した時、後ろから声が掛かった。
「……みちるさん?」
→2
目次(その他)
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「マジ無理」
思わず固まって呟いた私の顔を覗き込んだのは、金髪に青い目の美青年。
まるでおとぎ話に出てくる王子様のような……って、ホントに王子なんだけど。
「どうしたの? ミチル。ほら、早く魔法陣の上に乗って」
いやいやいやいや乗ったところで私には何もできないんですけど?
「……アーノルドさん、私がどこから来たのか、知ってるわよね?」
「ああ、“チキュウ”という星の“ニホン”とかいう国だろう?」
「そこと“ここ”がまっっったく違う国で、私のいたところには
魔法なんてものは存在しない、ってことも言ったわよね?」
「ああ、ミチルに魔力がないのはわかってるよ」
「じゃあどうして私は今この部屋にいて、あまつさえこんなキンキラキンの
魔法陣とやらの前で王家の祖霊だかなんだか得体の知れないモノを
召還するように迫られているのかしら?」
「だってそれは婚姻の儀式の一つだから仕方がないよ。
僕の妃になりたいと言ったのは君だろう?」
「だ、だからって、こんなの聞いてなーいっっっ!!!!!」
大声を上げた私、葉谷みちるは25歳、れっきとした現代日本のOLである。
何の因果か三ヶ月前、駅の階段から転げ落ちた私は、気がついたらここ――
スプリングランドというらしい、安易なネーミングの異世界に辿り着いていた。
そこを治めるのはサンルース王家。
自慢じゃないが、私は俗に“魔性の女”と言われる類の女である。
“キレイ”と“カワイイ”の中間に位置する男ウケのする容姿。
それに加えて、男をオトすための手練手管は中々のものだと自負している。
そんな私の信条は、「常に上を見ること」だ。
例え格好良くてエリートの彼と付き合っていても、いつ、どんな場所でも
「彼より上の男はいないか?」と注意を怠らず、自分磨きにも手を抜かない。
そして彼より上の男が現れたら、何の罪悪感もナシにそちらに乗り換えるのである。
悪女?そう言いたければ言いなさいよ。
私は自分の願望に忠実なだけ。騙される男の方が悪いのよ。
それに……今まで、新しいオトコに乗り換える時に古いオトコと揉めたことは、一度だってない。
それが密かにコンプレックスなのよね……。
どの彼も大抵、『君がそうしたいなら……』と、アッサリと去っていくのだ。
向こうも私に本気じゃなかったのかしら?
それにしては、付き合っている時に他の女の影なんて見えないし。
私って、隣に置いて表面的な付き合いをする分には良いけど、
執着するほどの魅力がない女なのかしら……?
「もしも引き止めてくれたら、この人に決めよう、って思うのに」
ひとりでに漏れた言葉に、こちらの世界に来る直前に起きた苦い出来事を思い出した。
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その日私は、一年間付き合った彼と最後のデートをしていた。
新しい彼が現れたから、別れを告げるつもりだったのだ。
古いオトコの名は、森条暁(あきら)。元職場の上司である。
今まで一人のオトコと持って半年だった私が、
一年も彼と付き合ったのはハッキリ言って奇跡に近い。
元々上司と部下だった時から口げんかばかりで、私の男性遍歴やぶっちゃけ
本性も知っている彼に対しては自分を偽る必要がなく、居心地が良かった。
本性も知っている彼に対しては自分を偽る必要がなく、居心地が良かった。
対する新しいオトコの名は林原登吾。取引先の社長令息である。
暁は半年前に会社を退職し、約束されたエリート街道を捨てて独力で新しい会社を起こした。
その経営を軌道に載せるため、私と会う暇もないくらい必死で働いている暁と、
既に安定した社長の椅子が待機している登吾さん。
その経営を軌道に載せるため、私と会う暇もないくらい必死で働いている暁と、
既に安定した社長の椅子が待機している登吾さん。
私の信条に従えばいくら社長とは言え不安定な将来しか見えない暁を捨て、
登吾さんを選ぶのは当然のことだ。
だから、久々の逢瀬となったその日、暁に別れを告げよう……そう思っていたのだ。
「夕メシ何がいい?」
「う~ん、そうねぇ、イタリアンかなぁ」
「なら会社の近くのあの店行こーぜ。お前、好きだったろう?」
「えっ……あそこはイヤ!」
「……なんでだよ?」
「いいじゃない。会社の近くでもう何度も行ってるんだし。
今日は行ったことないお店に入りたいの!」
「……ったく、我がままだなお前」
会社の近くのイタリアンレストラン……Partenza。
――『俺じゃダメなのか?』
蘇ってくるのは、目の前にいるシブイ二枚目の低く響く声。
暁に初めて告白めいた言葉をもらったあの店を、
別れの思い出の場所なんかにしたくなかった。
別れの思い出の場所なんかにしたくなかった。
そのことに、暁は気づいていたのだろうか……?
私はこの時の自分の判断を、後々ものすごく後悔することになる。
「ほら、着いたぞ」
暁が連れて来てくれたのは、高級ホテルの中のレストランだった。
どうしよう、まさか部屋取るとか言われたら……別れるつもりで来てるのに……
「どうしたの? Sホテルなんて、奮発しちゃって。急に変更したにしては随分豪勢じゃない?」
内心の動揺を隠して、私は暁に軽口を叩く。
「まあ、最後くらいはな……」
暁がぼそっと呟いた言葉に驚いて、
「それってどういう……?」
と私が問い返した時、後ろから声が掛かった。
「……みちるさん?」
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