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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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拍手ログです。神話風にしたかった……orz

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火の神子・エンは水の巫女・スイに恋をした。
エンはスイのために、その生み親を殺した。
エンを生み出したのは、コウとレンという双子の神だった。
火の神だったコウとレンは、沢山の地を炎で染めた。
街も、人も、動物も……沢山のものを燃やし尽くした。
エンにとっては、何の関心も持たぬ親であった。
コウとレンは、互いしか見えていなかった。
禁忌を犯し、倫(のり)を超え、神の国から追放された二神。
エンは生み落とされて後、一度も省みられることなく放っておかれた。
けれどエンは二神を恨まなかった。
哀しいとも、憎いとも思わなかった。
エンが彼らを殺したのは、ひとえにスイに会わんがため……。
 

~~~

 
両親の非道にすら何も感じなかったエンに、感情をもたらしたのはスイだった。
流れる川の岸辺、水の民が暮らす里の境界で、二人は出会った。
エンは水が見たかった。
生まれたときからいつも、燃え盛る炎しか見たことの無かったエンが、
未知のものを求めて訪れた場所で初めて、エンはスイに出会った。
不思議なきらめきが流れ行く川面に見入るエンに、スイは優しく笑いかけた。
エンが初めて見る、嘲りでも媚びでもない、まっさらな笑顔。
その笑顔を見たくて、エンは度々火と水の境に赴くようになった。

スイは生まれ落ちた瞬間から、水の巫女として神殿に入った。
家族と引き離され、先代の水の巫女の下、幼い頃より修行の日々を送った。
同じ年頃の子どもが母親の腕の中に抱かれているとき、
友達と野山を駆け回っているとき、スイはたった一人、過酷な修行に耐えていた。
スイは淋しかった。
何故、自分だけが、と感じたこともあった。
けれどそれでも巫女の道を選んだのは、皆がそれを望んだから。
長い年月のうち、スイはいつの間にか“寂しい”という気持ちを忘れてしまった。
見回りに出かけた川辺で、エンに出会うまで……。
エンの瞳は、スイと同じ瞳だった。
寂しい瞳。哀しい瞳。自分でその気持ちに気づかない瞳。
だから、スイはエンに笑いかけた。
それが、村人皆が恐れていた火の神子だと知っていても。

コウとレンは、全てを知っていた。
エンの想いは、二神にとっては格好の遊び道具であった。
コウとレンは、エンに黙って水の里を攻めた。
好き勝手に火種をばらまき、泉を枯らし、水の民を死なせた。
水の民は怒り狂い、巫女を水の里の奥深くに隠した。
火の神子であるエンが、スイに会いに行くことはできなくなった。
水を失った人々はコウとレンを呪い、沢山の恨みの声が火の社を取り巻いた。
皆が、火の神の死を願っていた。
皆が、火の神子であるエンだけが、それをもたらすことが出来ると知っていた。
エンは人々の声に応えた。
スイに、もう一度会うために。
 

~~~

 
自らを崇め、讃える人々を無視して、エンは水の里に赴いた。
傷だらけになりながら、水の民からスイを攫った。
スイは結界の外でエンを待っていた。
スイは笑っていた。
そして、エンにそっと手を伸ばした。
触れた手は酷く冷たく、エンの肌を刺すような痛みが襲った。
同時にスイも、苦しそうに顔を歪めた。
それでも二人は手を取った。
誰も、知らない場所へと。
 
エンがスイを水の里に連れ帰ったのは、その翌日のことだった。
衰弱しきったスイに何が起きたか理解した水の民は、
エンを憎み、水の里から追い出した。
火の社に帰り着いた時、エンは既に瀕死の状態だった。
水の民はスイを、火の民はエンを必死で看病した。
けれども、二人の力が元に戻ることは無かった。
それから暫く時が過ぎ、スイは病みついたまま一人の赤子を産み落とした。
水の民と同じ髪、同じ瞳を持ちながら、その赤子の肌はぬくもりを宿していた。
スイはその赤子を、“オン”と名づけた。
水の民に疎まれ、気味悪がられるその子を、スイは可愛がった。
 

 
「私があなたに触れたなら、あなたは消えてしまうでしょう?」
 
「それでも、触れたいのです。この世でただ一人、愛したあなたに……」
 

 
一夜だけだと、解っていた。
命すら危うくなると解っていた。
それでも、触れずにはいられなかった。
スイはそっと枕元に佇む我が子に触れた。
火の社ではエンもまた、長きに渡り床に臥しているという。
愚かだと嗤うだろうか?
己をこの世に生み出した親を恨むだろうか?
この子はこれから、どんな生を歩むのだろうか……?
不思議なぬくもりを宿す幼子の頬をそっと撫でて、水の巫女は世を去った。
同じ頃、遠い火の社で火の神子もまた、儚く燃え尽きていった。





→続編『温と冷
 
目次(その他)
 

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火の神子・エンは水の巫女・スイに恋をした。
エンはスイのために、その生み親を殺した。
エンを生み出したのは、コウとレンという双子の神だった。
火の神だったコウとレンは、沢山の地を炎で染めた。
街も、人も、動物も……沢山のものを燃やし尽くした。
エンにとっては、何の関心も持たぬ親であった。
コウとレンは、互いしか見えていなかった。
禁忌を犯し、倫(のり)を超え、神の国から追放された二神。
エンは生み落とされて後、一度も省みられることなく放っておかれた。
けれどエンは二神を恨まなかった。
哀しいとも、憎いとも思わなかった。
エンが彼らを殺したのは、ひとえにスイに会わんがため……。
 

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両親の非道にすら何も感じなかったエンに、感情をもたらしたのはスイだった。
流れる川の岸辺、水の民が暮らす里の境界で、二人は出会った。
エンは水が見たかった。
生まれたときからいつも、燃え盛る炎しか見たことの無かったエンが、
未知のものを求めて訪れた場所で初めて、エンはスイに出会った。
不思議なきらめきが流れ行く川面に見入るエンに、スイは優しく笑いかけた。
エンが初めて見る、嘲りでも媚びでもない、まっさらな笑顔。
その笑顔を見たくて、エンは度々火と水の境に赴くようになった。

スイは生まれ落ちた瞬間から、水の巫女として神殿に入った。
家族と引き離され、先代の水の巫女の下、幼い頃より修行の日々を送った。
同じ年頃の子どもが母親の腕の中に抱かれているとき、
友達と野山を駆け回っているとき、スイはたった一人、過酷な修行に耐えていた。
スイは淋しかった。
何故、自分だけが、と感じたこともあった。
けれどそれでも巫女の道を選んだのは、皆がそれを望んだから。
長い年月のうち、スイはいつの間にか“寂しい”という気持ちを忘れてしまった。
見回りに出かけた川辺で、エンに出会うまで……。
エンの瞳は、スイと同じ瞳だった。
寂しい瞳。哀しい瞳。自分でその気持ちに気づかない瞳。
だから、スイはエンに笑いかけた。
それが、村人皆が恐れていた火の神子だと知っていても。

コウとレンは、全てを知っていた。
エンの想いは、二神にとっては格好の遊び道具であった。
コウとレンは、エンに黙って水の里を攻めた。
好き勝手に火種をばらまき、泉を枯らし、水の民を死なせた。
水の民は怒り狂い、巫女を水の里の奥深くに隠した。
火の神子であるエンが、スイに会いに行くことはできなくなった。
水を失った人々はコウとレンを呪い、沢山の恨みの声が火の社を取り巻いた。
皆が、火の神の死を願っていた。
皆が、火の神子であるエンだけが、それをもたらすことが出来ると知っていた。
エンは人々の声に応えた。
スイに、もう一度会うために。
 

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自らを崇め、讃える人々を無視して、エンは水の里に赴いた。
傷だらけになりながら、水の民からスイを攫った。
スイは結界の外でエンを待っていた。
スイは笑っていた。
そして、エンにそっと手を伸ばした。
触れた手は酷く冷たく、エンの肌を刺すような痛みが襲った。
同時にスイも、苦しそうに顔を歪めた。
それでも二人は手を取った。
誰も、知らない場所へと。
 
エンがスイを水の里に連れ帰ったのは、その翌日のことだった。
衰弱しきったスイに何が起きたか理解した水の民は、
エンを憎み、水の里から追い出した。
火の社に帰り着いた時、エンは既に瀕死の状態だった。
水の民はスイを、火の民はエンを必死で看病した。
けれども、二人の力が元に戻ることは無かった。
それから暫く時が過ぎ、スイは病みついたまま一人の赤子を産み落とした。
水の民と同じ髪、同じ瞳を持ちながら、その赤子の肌はぬくもりを宿していた。
スイはその赤子を、“オン”と名づけた。
水の民に疎まれ、気味悪がられるその子を、スイは可愛がった。
 

 
「私があなたに触れたなら、あなたは消えてしまうでしょう?」
 
「それでも、触れたいのです。この世でただ一人、愛したあなたに……」
 

 
一夜だけだと、解っていた。
命すら危うくなると解っていた。
それでも、触れずにはいられなかった。
スイはそっと枕元に佇む我が子に触れた。
火の社ではエンもまた、長きに渡り床に臥しているという。
愚かだと嗤うだろうか?
己をこの世に生み出した親を恨むだろうか?
この子はこれから、どんな生を歩むのだろうか……?
不思議なぬくもりを宿す幼子の頬をそっと撫でて、水の巫女は世を去った。
同じ頃、遠い火の社で火の神子もまた、儚く燃え尽きていった。





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