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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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ギリシャ神話をモチーフに、神と王女と英雄と。SSS。

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「娘ダナエの生む子に殺される」との予言を受けたアクリシオスは、
ダナエを誰も人の訪れぬ高い塔の上に閉じ込めた。
ところが、ダナエは身ごもってしまう。
金の雨の一粒に姿を変え、塔に入り込んだ全能の神ゼウスの子を。
アクリシオスは慄き焦り、生まれた男子とダナエを木箱に閉じ込め川へと流した。
二人を救い出したのはポリュデクテス。
ダナエを妻に迎えたポリュデクテスは、次第にその子を疎んじるようになる。
神(ゼウス)の息子、『英雄』ペルセウスを。

―ギリシャ神話より―
 

~~~
 
 
「人間より神様の方が、よっぽど人間らしいのはどうしてかしら?」

薄暗い牢獄の中で、少女は眺めていた本をパタリと閉じて立ち上がった。
柵越しにチラリとそちらを覗き見れば、
彼女は肩にかかる長い髪を鬱陶しそうに振り払ってみせた。

「己の娘が生む子に殺されると予言を受けたなら、娘を殺してしまえばいい。
娘を殺すことが出来なくても、生まれた孫を殺せばいい」

「やられる前に殺す。実に合理的な考え方だな」

からかうような己の言を意に介す素振りも見せず、少女は続けた。

「殺すことが出来ないのなら、取り込めば良かったのよ。
傍において、愛情でくるんで、絶対に己を憎むことのないように。
その上で護衛に監視でもさせていた方が、
目の届かぬところに放すよりよっぽど安全ではなくて?」

「ペルセウスがアクリシオスを殺したのは復讐のためじゃない。単なる偶然だ」

滔々と紡がれる言葉に茶々を入れれば、彼女はムッとしたようにこう答えた。

「危険性の高低の話をしているのよ」

長い睫に縁取られた瞳が、微かな揺らぎを見せる。

「自分の身が一番大事なら、娘と孫をすぐに殺せばいい。
それができないのなら、殺されるのを覚悟で娘も孫も愛しぬけばいい。
そのどちらも出来ない愚かさこそ、人間の最も愛しいところだと思わない?」

「亡き妻を愛しむ余り死の国まで踏み入った夫が、
醜く腐れた妻の姿を見た途端愛を忘れ逃げ去ったような?」

「ええ、そうよ。例えば私が明日百歳の老婆に姿を変えてしまったとして、
今日までの私に愛を囁いてくださった方がしわくちゃの醜い姿になった私にも
同じように愛を告げられたら、それは偽りになる、と思うの。
例えその方にとってはそれが真実であったとしても、
少なくとも“私は”信じることはできない」

「イザナミを振り払ったイザナギの反応の方が正しいと?」

「人は器と魂を切り離すことができない生き物よ。
姿や地位やしがらみなんて“器”に囚われて生きている。
……イザナギもイザナミは神だけど」

少女は自嘲するように微笑って見せる。
愚か。哀しい。……愛しい。だから、苦しい。

「ね?人より神の方が、遥かに人間らしいでしょう?」

「ダナエ……」

先日謀反の刃に斃れた王は、何を思って己が娘にその名を付けたのだろうか。

「わたくしとこんなに和やかに会話をしているところを見つかったら、
あなたも夫(ゼウス)に処刑されるのではなくて?」
 
檻の中に囚われた姫の、どこまでも澄んだ眼差しが心を射る。
 
 

“ダナエ”と名づけた娘に、『全能の神(ゼウス)』と仇名される宰相を縁づけるとは
何という笑い草!先王は狂っていたのだろう。
己が孫を、絶対的英雄(ペルセウス)にすることを望んだ。
王の望みは潰えた。
宰相(ゼウス)は子を成す前に、王(アクリシオス)も姫(ダナエ)も裏切った。
長年に渡り育ててもらった王に、国に何の感慨も示すことなく、彼は王を葬った。
彼と婚儀を挙げたばかりの姫も、明日には処刑される。
“塔に閉じ込められる”という猶予も与えられぬまま。
 
 

「……キンウ。お前の名前は、
お前の故郷の言葉でどういう意味を持つのだったかしら?」

鈴の鳴るような声が耳元で問う。

「金の雨、と」

小さな答えに、少女は笑う。
彼女が牢獄に入ってから初めて見せた、何の憂いも含まれぬ満面の笑み。

「私のゼウスは、貴方だわ」

檻の隙間から重ねた口付け。
孤児であった己を拾い、愛情と温もりを与えてくれた幼馴染を
助けることもできず裏切り者に与した。小さな嫉妬と、保身のために。
そんな彼を、彼女は一言も責めなかった。

「アクリシオスとダナエは……人間だよ」

今更のように吐き出した言葉に、ダナエはまた笑った。

「そうよ。だから私もお父様も……あのひとを憎めない」

風雨が吹き込む牢獄の中、姫の瞳から滴る涙を、彼はその目の奥に焼き付けた。

 
~~~


「ペルセウス」と名乗る若者が王となった宰相を倒し、
この地を支配することになるのは、それから三十年余り後。
かつての牢番に瓜二つのその青年に、『全能の神(ゼウス)』と呼ばれた男は慄き、
そして己の運命(さだめ)を悟った。
 
「所詮私は、卑しきポリュデクテスだった、という訳か……」
 
今際の際に呟かれたその言葉の真意を、英雄は知らなかった。
 
 
 
 
 
 

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「娘ダナエの生む子に殺される」との予言を受けたアクリシオスは、
ダナエを誰も人の訪れぬ高い塔の上に閉じ込めた。
ところが、ダナエは身ごもってしまう。
金の雨の一粒に姿を変え、塔に入り込んだ全能の神ゼウスの子を。
アクリシオスは慄き焦り、生まれた男子とダナエを木箱に閉じ込め川へと流した。
二人を救い出したのはポリュデクテス。
ダナエを妻に迎えたポリュデクテスは、次第にその子を疎んじるようになる。
神(ゼウス)の息子、『英雄』ペルセウスを。

―ギリシャ神話より―
 

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「人間より神様の方が、よっぽど人間らしいのはどうしてかしら?」

薄暗い牢獄の中で、少女は眺めていた本をパタリと閉じて立ち上がった。
柵越しにチラリとそちらを覗き見れば、
彼女は肩にかかる長い髪を鬱陶しそうに振り払ってみせた。

「己の娘が生む子に殺されると予言を受けたなら、娘を殺してしまえばいい。
娘を殺すことが出来なくても、生まれた孫を殺せばいい」

「やられる前に殺す。実に合理的な考え方だな」

からかうような己の言を意に介す素振りも見せず、少女は続けた。

「殺すことが出来ないのなら、取り込めば良かったのよ。
傍において、愛情でくるんで、絶対に己を憎むことのないように。
その上で護衛に監視でもさせていた方が、
目の届かぬところに放すよりよっぽど安全ではなくて?」

「ペルセウスがアクリシオスを殺したのは復讐のためじゃない。単なる偶然だ」

滔々と紡がれる言葉に茶々を入れれば、彼女はムッとしたようにこう答えた。

「危険性の高低の話をしているのよ」

長い睫に縁取られた瞳が、微かな揺らぎを見せる。

「自分の身が一番大事なら、娘と孫をすぐに殺せばいい。
それができないのなら、殺されるのを覚悟で娘も孫も愛しぬけばいい。
そのどちらも出来ない愚かさこそ、人間の最も愛しいところだと思わない?」

「亡き妻を愛しむ余り死の国まで踏み入った夫が、
醜く腐れた妻の姿を見た途端愛を忘れ逃げ去ったような?」

「ええ、そうよ。例えば私が明日百歳の老婆に姿を変えてしまったとして、
今日までの私に愛を囁いてくださった方がしわくちゃの醜い姿になった私にも
同じように愛を告げられたら、それは偽りになる、と思うの。
例えその方にとってはそれが真実であったとしても、
少なくとも“私は”信じることはできない」

「イザナミを振り払ったイザナギの反応の方が正しいと?」

「人は器と魂を切り離すことができない生き物よ。
姿や地位やしがらみなんて“器”に囚われて生きている。
……イザナギもイザナミは神だけど」

少女は自嘲するように微笑って見せる。
愚か。哀しい。……愛しい。だから、苦しい。

「ね?人より神の方が、遥かに人間らしいでしょう?」

「ダナエ……」

先日謀反の刃に斃れた王は、何を思って己が娘にその名を付けたのだろうか。

「わたくしとこんなに和やかに会話をしているところを見つかったら、
あなたも夫(ゼウス)に処刑されるのではなくて?」
 
檻の中に囚われた姫の、どこまでも澄んだ眼差しが心を射る。
 
 

“ダナエ”と名づけた娘に、『全能の神(ゼウス)』と仇名される宰相を縁づけるとは
何という笑い草!先王は狂っていたのだろう。
己が孫を、絶対的英雄(ペルセウス)にすることを望んだ。
王の望みは潰えた。
宰相(ゼウス)は子を成す前に、王(アクリシオス)も姫(ダナエ)も裏切った。
長年に渡り育ててもらった王に、国に何の感慨も示すことなく、彼は王を葬った。
彼と婚儀を挙げたばかりの姫も、明日には処刑される。
“塔に閉じ込められる”という猶予も与えられぬまま。
 
 

「……キンウ。お前の名前は、
お前の故郷の言葉でどういう意味を持つのだったかしら?」

鈴の鳴るような声が耳元で問う。

「金の雨、と」

小さな答えに、少女は笑う。
彼女が牢獄に入ってから初めて見せた、何の憂いも含まれぬ満面の笑み。

「私のゼウスは、貴方だわ」

檻の隙間から重ねた口付け。
孤児であった己を拾い、愛情と温もりを与えてくれた幼馴染を
助けることもできず裏切り者に与した。小さな嫉妬と、保身のために。
そんな彼を、彼女は一言も責めなかった。

「アクリシオスとダナエは……人間だよ」

今更のように吐き出した言葉に、ダナエはまた笑った。

「そうよ。だから私もお父様も……あのひとを憎めない」

風雨が吹き込む牢獄の中、姫の瞳から滴る涙を、彼はその目の奥に焼き付けた。

 
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「ペルセウス」と名乗る若者が王となった宰相を倒し、
この地を支配することになるのは、それから三十年余り後。
かつての牢番に瓜二つのその青年に、『全能の神(ゼウス)』と呼ばれた男は慄き、
そして己の運命(さだめ)を悟った。
 
「所詮私は、卑しきポリュデクテスだった、という訳か……」
 
今際の際に呟かれたその言葉の真意を、英雄は知らなかった。
 
 
 
 
 
 

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