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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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攻め入る国の王子と攻め入られる国の王女の最後の夜。中世欧風SSS。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「愛したとしたら何が悪いの?」
 
西隣の小国に、最後の攻撃を仕掛ける前夜。
寝所で己を出迎えたその国の王女に、常の如く仕掛けた、惨たらしい悪戯。
しかし、彼女は黙ってこちらを見つめるのみで、それに応えることはなかった。
その瞳に写るのは、哀しみ、切なさ、戸惑い、不安……。
初めて感じる眼差しに、心がざわめく。
 
「どうした? ……まさか、俺を愛したとか言うんじゃないだろうな?
明日我が国に滅ぼされるという国の王女が!」
 
嗤いながら告げた言葉は、これまで己が吐き出した悪口の中で、最も残酷な言葉だった。
 
少女は、言った。震える手を固く握りしめて。
燃えるような怒りと悲しみを、その瞳にたぎらせながら。
 
「愛したとしたら、何が悪いの?」
 
凍りついた男の表情に構わず、
押さえつけても、押さえつけても溢れる思いの丈を吐き出した。
 
「たとえ人質同然に差し出された道具だったとしても……私はあなたの妻よ!
沢山の道具の中の一つに過ぎないとしても……あなたを……
憎む方が正しかったとしても! 愛したとしたら、何が悪いの!?」
 
ぶつけられた激昂に、男は返事を返すことができなかった。
“愛”という言葉を自分に向けられたのは、その時が初めてだったから。
 
「頼む……頼むから、泣かないでくれ……」
 
呆然としたまま出てきたのは、そんな言葉だけだった。
華奢な少女の身体を、彼は縋るように掻き抱く。
 
「俺は、お前を……」
 
男の口から、己の望む言葉が決して得られぬのを知って、少女はその腕を跳ね除けた。
 
「国へ、帰ります」
 
寝所から走り去る彼女を、男は引き止めることができなかった。
 
 
~~~

 
「アイラ姫を送り出した? ……なんと、惜しいことを」
 
翌日、出陣前の緊張と高揚が入り混じる空気の中、
昨夜の出来事を告げた己に側近はこう返した。
 
「お前はアレにそれほど良い印象を抱いてはいなかったであろう? 何を今更……?」
 
訝しく問い返すと、側近はその淡々とした声音のまま、こう答えた。
 
「いえ、姫ご自身はどうなっても構いません。ただ、腹の中のお子が……」
 
「!?」
 
初めて知る事実に、驚愕して目を見開いた主に構わず、
彼はその冷徹な姿勢を崩さぬまま、こう続けた。
 
「殿下の折角の第一子であらせられたのに、本当に惜しいことを致しました。
他のお妃でお子を孕まれておいでの方は、まだ一人もおいでになりませんからね」
 
……それはそうだろう。己はもうずっと、アレしか抱いておらぬ。
アレに出会ってから、他の女を抱く気は不思議と起こらなくなった。
緩やかに波打つ金色の髪。深い森の色をそのまま閉じ込めたような、緑の双眸。
人質同然の身でありながら、決して媚びることなく、誇り高くあった少女。
悪戯をしかければすぐムキになり、無理やり抱こうとすれば泣いて抗った。
決して自分の意のままにならぬ彼女が面白くて、手酷い仕打ちを随分重ねた。
そんな時でも、その緑の瞳から輝きが失われることは、決してなかった。
その、輝きが……強さが、好きだった。しかし。
 
アイラ、お前が去っても……惜しまれるのは俺の子のみ、とは……
 
「フッ、ははははは……ははははははは……っ!」
 
「……殿下?」
 
気が触れたように笑い出した主に、怪訝な視線を向けた側近の首が飛んだのは、
小国の城を落とした翌日のことだった。
 
史上最強と歌われた軍事国家が狂った世継ぎによって滅ぼされたのは、
それから間もなくのこと。
混乱を沈めようと向けられた大国の軍勢が王太子を攻めたとき、
彼が立て篭もったのは、かつて己が攻め落とした、あの小国の城だった。
 
 
~~~

 
「アイラ……」
 
姫の血がまだこびりつく床の上で、この世に別れを告げようとする男の顔に、微笑が浮かぶ。
 
愛であったのか、そうでなかったのか。男には最後まで分からなかった。
けれどそれももう、今終わる……
 
事切れる瞬間、彼は破壊された玉座の向こうに、
己に良く似た赤子を腕に抱いた美しい女の幻を見た。
 
 
 

 

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「愛したとしたら何が悪いの?」
 
西隣の小国に、最後の攻撃を仕掛ける前夜。
寝所で己を出迎えたその国の王女に、常の如く仕掛けた、惨たらしい悪戯。
しかし、彼女は黙ってこちらを見つめるのみで、それに応えることはなかった。
その瞳に写るのは、哀しみ、切なさ、戸惑い、不安……。
初めて感じる眼差しに、心がざわめく。
 
「どうした? ……まさか、俺を愛したとか言うんじゃないだろうな?
明日我が国に滅ぼされるという国の王女が!」
 
嗤いながら告げた言葉は、これまで己が吐き出した悪口の中で、最も残酷な言葉だった。
 
少女は、言った。震える手を固く握りしめて。
燃えるような怒りと悲しみを、その瞳にたぎらせながら。
 
「愛したとしたら、何が悪いの?」
 
凍りついた男の表情に構わず、
押さえつけても、押さえつけても溢れる思いの丈を吐き出した。
 
「たとえ人質同然に差し出された道具だったとしても……私はあなたの妻よ!
沢山の道具の中の一つに過ぎないとしても……あなたを……
憎む方が正しかったとしても! 愛したとしたら、何が悪いの!?」
 
ぶつけられた激昂に、男は返事を返すことができなかった。
“愛”という言葉を自分に向けられたのは、その時が初めてだったから。
 
「頼む……頼むから、泣かないでくれ……」
 
呆然としたまま出てきたのは、そんな言葉だけだった。
華奢な少女の身体を、彼は縋るように掻き抱く。
 
「俺は、お前を……」
 
男の口から、己の望む言葉が決して得られぬのを知って、少女はその腕を跳ね除けた。
 
「国へ、帰ります」
 
寝所から走り去る彼女を、男は引き止めることができなかった。
 
 
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「アイラ姫を送り出した? ……なんと、惜しいことを」
 
翌日、出陣前の緊張と高揚が入り混じる空気の中、
昨夜の出来事を告げた己に側近はこう返した。
 
「お前はアレにそれほど良い印象を抱いてはいなかったであろう? 何を今更……?」
 
訝しく問い返すと、側近はその淡々とした声音のまま、こう答えた。
 
「いえ、姫ご自身はどうなっても構いません。ただ、腹の中のお子が……」
 
「!?」
 
初めて知る事実に、驚愕して目を見開いた主に構わず、
彼はその冷徹な姿勢を崩さぬまま、こう続けた。
 
「殿下の折角の第一子であらせられたのに、本当に惜しいことを致しました。
他のお妃でお子を孕まれておいでの方は、まだ一人もおいでになりませんからね」
 
……それはそうだろう。己はもうずっと、アレしか抱いておらぬ。
アレに出会ってから、他の女を抱く気は不思議と起こらなくなった。
緩やかに波打つ金色の髪。深い森の色をそのまま閉じ込めたような、緑の双眸。
人質同然の身でありながら、決して媚びることなく、誇り高くあった少女。
悪戯をしかければすぐムキになり、無理やり抱こうとすれば泣いて抗った。
決して自分の意のままにならぬ彼女が面白くて、手酷い仕打ちを随分重ねた。
そんな時でも、その緑の瞳から輝きが失われることは、決してなかった。
その、輝きが……強さが、好きだった。しかし。
 
アイラ、お前が去っても……惜しまれるのは俺の子のみ、とは……
 
「フッ、ははははは……ははははははは……っ!」
 
「……殿下?」
 
気が触れたように笑い出した主に、怪訝な視線を向けた側近の首が飛んだのは、
小国の城を落とした翌日のことだった。
 
史上最強と歌われた軍事国家が狂った世継ぎによって滅ぼされたのは、
それから間もなくのこと。
混乱を沈めようと向けられた大国の軍勢が王太子を攻めたとき、
彼が立て篭もったのは、かつて己が攻め落とした、あの小国の城だった。
 
 
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「アイラ……」
 
姫の血がまだこびりつく床の上で、この世に別れを告げようとする男の顔に、微笑が浮かぶ。
 
愛であったのか、そうでなかったのか。男には最後まで分からなかった。
けれどそれももう、今終わる……
 
事切れる瞬間、彼は破壊された玉座の向こうに、
己に良く似た赤子を腕に抱いた美しい女の幻を見た。
 
 
 

 

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