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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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表と裏』番外編。拍手ログ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「大分膨れてきたな」

王太子アンリは正妃エリアーヌの腹を撫でながら、そう呟いた。

「ええ、間もなく臨月を迎えるのですもの」

穏やかに答えるエリアーヌに、アンリは少し表情を曇らせて俯いた。

「……エリアーヌ、私はそなたに詫びねばならぬ仕打ちをした。
ずっと、謝らねばならぬと思い、今日までその機を逃してきた」

「……そのことならば、殿下がわたくしに詫びねばならぬことなど、
何一つとしてございません。全てはこの宮に住まう魔物が引き起こしたこと」

「そなたがそんなことを出来る女ではないと、誰よりも私がまず先に気づくべきだった!
それをヴィクトルに諭されて、ようやく……! いつでも、そうだ。
何をするにも、あやつの方がいつも私より素早く、機転が効く……。
本来ならば、ヴィクトルこそが王太子の座に就くべきだったのだ……」

「そのようなことはございませんわ、殿下。どうか落ち着かれませ」

震える夫の肩に、身重の妃はそっと寄り添う。

「あれは、近ごろは宮廷に姿を見せぬな」

「遠駆けに凝られているようですわ。よく馬に乗って城を出て行かれるとか」

「……おまえにも、行き先を告げぬのか?」

「それは、どういった意味にございましょう?」

弱々しく己を見上げる夫を、エリアーヌは真っ直ぐに見つめた。
アンリは自嘲するように溜息を吐いた。

「ヴィクトルは、決まって西の方角に馬を走らせる。西には……オラールの離宮がある」

「あの方は、そのような不実をなさる方ではございませんわ!」

大声で叫んだ妃を、アンリは怪訝な眼差しを投げかけた。

「そなた……“どちら”を庇ってそう言うのだ?」

エリアーヌは息を飲んだ。何も知らないと思っていた夫。
彼がもし、弟がかつて自分に寄せていた想いに、
もしくは今“彼女”に抱いている気持ちに気づいていたら――?

「わたくしは……わたくしはあの方に、愛するとはどういうことか、
真に人を想うことの意味を教えていただいたような気がするのです。
だからこそ今、こうしてあなたの隣で、
大切な宝物を授かることができたのではないかと思うのです」

「……エリアーヌ、私と君は、初めから定められて夫婦になった。
恋も知らず、愛も知らず……。私たちはお互いを嫌い合っていたわけでは決してない。
けれどどこかで、嵌められた枷から抜け出したいという思いが、
同じ囲いの中で支え合いながら育ってきたはずの私たちを
互いからあんなにも遠ざけていたのかもしれない……」

「そしてその“思い”の象徴がパメラ様だった、とあなたはそうおっしゃるのですか?」

妃の問いに、アンリは哀しく首を振った。

「いいやそれは是であり否だ。私は本当に、心から初めて人を愛した。
それが彼女だった。いいや、今でも愛している。君には心からすまないと思うが……」

「いいえ、良いのです。わたくしもあの方を愛しています。
わたくしたちにとってあの方の存在は必要不可欠なものであったのだと、
そう思っているのです。ですからあの方との出会いをもたらして下さった
全てのものに、感謝と許しを与えなければ……わたくしはそう思うのです」

真摯に己を見据える妃の瞳に、王太子は項垂れた。


~~~


パメラは決してヴィクトルに離宮の門を開きはしなかった。
王太子の側室ごときが第二王子を追い返す、その体裁の悪さを
いくら周囲の者に諭されても、ヴィクトルだけは宮の中に招こうとはしなかった。
彼らの不仲を知る者たちから見ればそれは、己を後宮から追い出したヴィクトルを
骨の髄まで嫌うお役御免の側室と、策謀を用いて彼女を後宮から追放した、
との不名誉な噂を取り消すために躍起になる第二王子の構図であった。

けれど誰が知っていただろうか。
馬首を返すヴィクトルの背に、どこまでも切ない眼差しを投げかけていた女の姿を!
振り返った男が離宮の窓を見上げる瞳に宿る果てなき悔恨と哀しみを!


パメラは死んだ。
最期までヴィクトルに見舞いを許さず、王太子の側室の一人として。
葬式に王族の参列は無かった。
後宮を乱した元凶、と呼ばれる女の葬儀に、王が参列を許さなかったためである。
ただ美しい花束だけが、その墓を鮮やかに彩った。

参列者が皆離宮を去り、雨が降り出した深夜。
その馬主は、ようやく離宮の中に入ることを許された。
馬を乗り捨てて駆け寄った、色鮮やかな花に囲まれた墓の前で、男は泣いた。
たった一人、いつまでもいつまでも嘆き続けた。





 

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「大分膨れてきたな」

王太子アンリは正妃エリアーヌの腹を撫でながら、そう呟いた。

「ええ、間もなく臨月を迎えるのですもの」

穏やかに答えるエリアーヌに、アンリは少し表情を曇らせて俯いた。

「……エリアーヌ、私はそなたに詫びねばならぬ仕打ちをした。
ずっと、謝らねばならぬと思い、今日までその機を逃してきた」

「……そのことならば、殿下がわたくしに詫びねばならぬことなど、
何一つとしてございません。全てはこの宮に住まう魔物が引き起こしたこと」

「そなたがそんなことを出来る女ではないと、誰よりも私がまず先に気づくべきだった!
それをヴィクトルに諭されて、ようやく……! いつでも、そうだ。
何をするにも、あやつの方がいつも私より素早く、機転が効く……。
本来ならば、ヴィクトルこそが王太子の座に就くべきだったのだ……」

「そのようなことはございませんわ、殿下。どうか落ち着かれませ」

震える夫の肩に、身重の妃はそっと寄り添う。

「あれは、近ごろは宮廷に姿を見せぬな」

「遠駆けに凝られているようですわ。よく馬に乗って城を出て行かれるとか」

「……おまえにも、行き先を告げぬのか?」

「それは、どういった意味にございましょう?」

弱々しく己を見上げる夫を、エリアーヌは真っ直ぐに見つめた。
アンリは自嘲するように溜息を吐いた。

「ヴィクトルは、決まって西の方角に馬を走らせる。西には……オラールの離宮がある」

「あの方は、そのような不実をなさる方ではございませんわ!」

大声で叫んだ妃を、アンリは怪訝な眼差しを投げかけた。

「そなた……“どちら”を庇ってそう言うのだ?」

エリアーヌは息を飲んだ。何も知らないと思っていた夫。
彼がもし、弟がかつて自分に寄せていた想いに、
もしくは今“彼女”に抱いている気持ちに気づいていたら――?

「わたくしは……わたくしはあの方に、愛するとはどういうことか、
真に人を想うことの意味を教えていただいたような気がするのです。
だからこそ今、こうしてあなたの隣で、
大切な宝物を授かることができたのではないかと思うのです」

「……エリアーヌ、私と君は、初めから定められて夫婦になった。
恋も知らず、愛も知らず……。私たちはお互いを嫌い合っていたわけでは決してない。
けれどどこかで、嵌められた枷から抜け出したいという思いが、
同じ囲いの中で支え合いながら育ってきたはずの私たちを
互いからあんなにも遠ざけていたのかもしれない……」

「そしてその“思い”の象徴がパメラ様だった、とあなたはそうおっしゃるのですか?」

妃の問いに、アンリは哀しく首を振った。

「いいやそれは是であり否だ。私は本当に、心から初めて人を愛した。
それが彼女だった。いいや、今でも愛している。君には心からすまないと思うが……」

「いいえ、良いのです。わたくしもあの方を愛しています。
わたくしたちにとってあの方の存在は必要不可欠なものであったのだと、
そう思っているのです。ですからあの方との出会いをもたらして下さった
全てのものに、感謝と許しを与えなければ……わたくしはそう思うのです」

真摯に己を見据える妃の瞳に、王太子は項垂れた。


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パメラは決してヴィクトルに離宮の門を開きはしなかった。
王太子の側室ごときが第二王子を追い返す、その体裁の悪さを
いくら周囲の者に諭されても、ヴィクトルだけは宮の中に招こうとはしなかった。
彼らの不仲を知る者たちから見ればそれは、己を後宮から追い出したヴィクトルを
骨の髄まで嫌うお役御免の側室と、策謀を用いて彼女を後宮から追放した、
との不名誉な噂を取り消すために躍起になる第二王子の構図であった。

けれど誰が知っていただろうか。
馬首を返すヴィクトルの背に、どこまでも切ない眼差しを投げかけていた女の姿を!
振り返った男が離宮の窓を見上げる瞳に宿る果てなき悔恨と哀しみを!


パメラは死んだ。
最期までヴィクトルに見舞いを許さず、王太子の側室の一人として。
葬式に王族の参列は無かった。
後宮を乱した元凶、と呼ばれる女の葬儀に、王が参列を許さなかったためである。
ただ美しい花束だけが、その墓を鮮やかに彩った。

参列者が皆離宮を去り、雨が降り出した深夜。
その馬主は、ようやく離宮の中に入ることを許された。
馬を乗り捨てて駆け寄った、色鮮やかな花に囲まれた墓の前で、男は泣いた。
たった一人、いつまでもいつまでも嘆き続けた。





 

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