忍者ブログ
ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


同性愛要素を含みますので苦手な方はご注意下さい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



私の英雄(ヒーロー)は女の子だった。
小さな私設の託児所からその数倍の規模の公立保育所に移ったばかりのころ、
いじめられていた私をいつも助けてくれたのが彼女だった。
子どもの世界では、“新参者はいじめに遭う”と相場が決まっている。
女の子たちは群れをなし、群れには必ず“リーダー”がいる。
誰よりも目立ちたがりで、誰よりも気の強い女の子が。
そんな女の子が、ただでさえ目立つ“新参者”を疎まないわけがない。
ましてや私は我儘で偏屈な性質だった。
家族も同然の仲間たちの元、甘やかされた一人っ子の私は、
集団の規範に合わせることがとても苦手だったのだ。
 
それでも、初めのうちはまだ良かった。
“思い通りになるお人形”の出現を喜んだ年長の女の子たちが、
よってたかって私に群がり、結果として私を守ってくれたから。
私と同年の他の女の子たちは、“お姉さん”たちのおもちゃになることを嫌がった。
何も知らない私と、“動くお人形”の欲しかった“お姉さん”たちの利害は一致していたのだ。
問題はそれから暫く経ち、“お姉さん”たちが卒業した後にやって来た。
 
庇ってくれる相手のいなくなった私は、当然のごとくいじめの標的になった。
給食の牛乳に鼻糞を混ぜられる、トイレに閉じ込められる、
わざと転ばされることなどしょっちゅうだった。
そんな時、いつも私の前に立ちふさがり、
 
「なんでみんなこんなことするの!? ぜったいおかしいよ!」
 
と怒ってくれる女の子がいた。
長い髪の両端に三つ編みを結い、つぶらな瞳をした可愛らしいその女の子は、
まどか、という名前だった。彼女は群れを外れた“一匹狼”だった。
間違ったことは嫌い、嘘は嫌い、弱い者いじめは嫌い。
みんなが避けがちな軽い障害のある友だちの面倒も、進んで見る子どもだった。
 
私は、すぐに彼女と仲良くなった。
まどかちゃんの隣にいるのは楽だった。まどかちゃんは他人(ひと)を馬鹿にしない。
私が、“子どもの法律(ルール)”から外れるようなことを言ってしまっても、
決してそれを笑ったりはしなかった。
それが私だから、と認めてくれるような女の子だった。
 
まどかちゃんにはお父さんがいなかった。
そのことで、よく“リーダー”の女の子と喧嘩をしていた。
まどかちゃんのお父さんは、まどかちゃんがお母さんのお腹にいる間に
行方をくらましてしまったのだという。
まどかちゃんのお母さんは、十代でシングルマザーとなり、
昼夜働きながら懸命にまどかちゃんを育てていた。
まどかちゃんは、そんなお母さんが大好きだった。
 
「お父さんもいないくせに!」
 
“リーダー”の女の子がよく使っていた捨て台詞である。
普段は決して泣くことの無い気丈なまどかちゃんが、
この時ばかりは必死に涙をこらえていたのを私は知っている。
 
まどかちゃんはいつも言っていた。
 
「自分が“お父さん”の分までお母さんを守るのだ」
 
と。一方の私は、そのころ守られてばかりだった。
お父さんに、お母さんに、まどかちゃんに。
私は初めて、自分を恥ずかしいと思う感情を知った。
 
 
~~~

 
卒業アルバムの“大好きなおともだち”の欄に名が残る彼女とは、その後小学校が別れた。
文通を続けて数年がたったある日、まどかちゃんから一通のハガキが届いた。
 
『今度お父さんができます。弟も生まれます。
ドキドキするけど、とっても嬉しいです。
苗字が変わってお引っ越しもするけど、これからも仲良くしてね』
 
見るからに嬉しそうな字が踊っていた。
私は、その報せを素直に喜べなかった。そしてそんな自分に複雑な思いを抱いた。
 
「“お父さん”が欲しい」
 
と決して口にしなかったまどかちゃんが、本当はどれほどその存在を渇望していたか、
自分の父親に抱きあげられた彼女の紅潮した頬を見て知っていた。
きょうだいを望んでいたのも、同じ立場にあった己を省みて気づいていた。
まどかちゃんの幸せを喜ぶべきだ、と頭では解っていた。
それでも、嫌だった。まどかちゃんの苗字が変わってしまうことが。
自分にとっての英雄(ヒーロー)が、何だか別の人間に変わってしまうようで。
寂しかった。まどかちゃんが遠くに行ってしまうことが。
もう傍にはいられない、助けてもくれない、助けることもできない場所に行ってしまうことが。
 
実のところ、私はまどかちゃんの“お父さん”となる人間に嫉妬していたのだ。
“お父さん”は、きっとまどかちゃんのことも、まどかちゃんのお母さんのことも守れる。
あまつさえ弟という宝物まで与えることが出来るのだ。
まどかちゃんにとっての英雄(ヒーロー)ではないか。
私の英雄(ヒーロー)はまどかちゃんなのに、まどかちゃんの英雄(ヒーロー)は私ではない。
その事実が、たまらなく悔しかった。
私は、私も、まどかちゃんを守りたかった。守られてばかりではなく、恩返しがしたかった。
そうして私がまどかちゃんを求めるのと同じくらい、まどかちゃんに私を必要としてほしかった。
英雄(ヒーロー)になりたかった。
まどかちゃんを、彼女の守るお母さんごと守れる、強い人間になりたかった。
実際は、お父さん(ヒーロー)には大人の男の人しかなれない。
小学生の女の子だった私は、そんな現実から目を背けることしかできなかった。
そのハガキが届いて以降、私はまどかちゃんに手紙を書くことをやめた。
 
 
~~~

 
恋心というのは、風のように吹き過ぎてから初めて気づくものなのかもしれない。
 
ああ、あれは初恋だったのかもしれないな。
 
ふとそんな思いが浮かんだのは、まどかちゃんと連絡が途切れてから
数年が過ぎ去った高校生の時だった。
私はその時も、同性に恋をしていた。そしてそんな自分に戸惑っていた。
好きな女の子は、やることも言うこともどこか懐かしい存在だった。
 
そうだ、まどかちゃんに似てるんだ――
 
そう思った途端、私は唐突に己の恋心を自覚した。
そのころ、異性への初恋はとうに終えていた。
 
何だ、同じじゃないか。
男の子を好きになる時も、女の子を好きになる時も気持ちは同じ――
 
そんな単純なことにようやく気づけた私の心は、少しだけ軽くなった。
結局最後まで想いを伝えることはなかったけれど、
彼女への想いは大切な思い出として私の中に残った。
 

~~~

 
性別を問わず恋をする私を、「節操なし」と呼ぶ人もあるかもしれない。
同性を好きになることを、理解してくれない人もいるだろう。
けれど私は自分を恥じない。
彼女の、彼の英雄(ヒーロー)になりたいと願った自分を否定することだけはしたくない。
英雄(ヒーロー)になれなかった私でも、その想いだけは本物だったと信じていたいから。
そしてきっとまどかちゃんなら、そんな私を笑って受け入れてくれる気がするのだ。
それが私だから、と。
想いを叶えたかったわけではない、ただ認めてほしかった。
たとえ怪獣のしっぽに弾きとばされても、英雄(ヒーロー)と共に戦うことを。
 
「初恋は叶わない」とは言い得て妙だ。
私の初恋は叶わなかった。否、現在(いま)でも叶わぬ恋は多い。
我ながら厄介な性癖を持ったものだ、と溜息が漏れても、私は後悔していない。
あの時彼女への想いを認めたことを。
長い髪を靡かせて可愛らしく笑う、まっすぐで芯の強い私の英雄(ヒーロー)への想いを。
 
まどかちゃんが行ってしまってから、既に十年以上の月日が流れた。
今の彼女は、OLとして毎日を忙しく過ごしているのだろうか。
早めの結婚をして、お母さんになっているのだろうか。
どちらでも良い、私よりも、“お父さん”よりも数倍素敵な
英雄(ヒーロー)と巡り合ってくれることを、私は心から祈っている。

 
まどかちゃんは、今でも私の大好きな友だち。
そして大切な、大切な初恋の英雄(ヒーロー)だ。
 




後書き
 

拍手[1回]

PR


追記を閉じる▲

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



私の英雄(ヒーロー)は女の子だった。
小さな私設の託児所からその数倍の規模の公立保育所に移ったばかりのころ、
いじめられていた私をいつも助けてくれたのが彼女だった。
子どもの世界では、“新参者はいじめに遭う”と相場が決まっている。
女の子たちは群れをなし、群れには必ず“リーダー”がいる。
誰よりも目立ちたがりで、誰よりも気の強い女の子が。
そんな女の子が、ただでさえ目立つ“新参者”を疎まないわけがない。
ましてや私は我儘で偏屈な性質だった。
家族も同然の仲間たちの元、甘やかされた一人っ子の私は、
集団の規範に合わせることがとても苦手だったのだ。
 
それでも、初めのうちはまだ良かった。
“思い通りになるお人形”の出現を喜んだ年長の女の子たちが、
よってたかって私に群がり、結果として私を守ってくれたから。
私と同年の他の女の子たちは、“お姉さん”たちのおもちゃになることを嫌がった。
何も知らない私と、“動くお人形”の欲しかった“お姉さん”たちの利害は一致していたのだ。
問題はそれから暫く経ち、“お姉さん”たちが卒業した後にやって来た。
 
庇ってくれる相手のいなくなった私は、当然のごとくいじめの標的になった。
給食の牛乳に鼻糞を混ぜられる、トイレに閉じ込められる、
わざと転ばされることなどしょっちゅうだった。
そんな時、いつも私の前に立ちふさがり、
 
「なんでみんなこんなことするの!? ぜったいおかしいよ!」
 
と怒ってくれる女の子がいた。
長い髪の両端に三つ編みを結い、つぶらな瞳をした可愛らしいその女の子は、
まどか、という名前だった。彼女は群れを外れた“一匹狼”だった。
間違ったことは嫌い、嘘は嫌い、弱い者いじめは嫌い。
みんなが避けがちな軽い障害のある友だちの面倒も、進んで見る子どもだった。
 
私は、すぐに彼女と仲良くなった。
まどかちゃんの隣にいるのは楽だった。まどかちゃんは他人(ひと)を馬鹿にしない。
私が、“子どもの法律(ルール)”から外れるようなことを言ってしまっても、
決してそれを笑ったりはしなかった。
それが私だから、と認めてくれるような女の子だった。
 
まどかちゃんにはお父さんがいなかった。
そのことで、よく“リーダー”の女の子と喧嘩をしていた。
まどかちゃんのお父さんは、まどかちゃんがお母さんのお腹にいる間に
行方をくらましてしまったのだという。
まどかちゃんのお母さんは、十代でシングルマザーとなり、
昼夜働きながら懸命にまどかちゃんを育てていた。
まどかちゃんは、そんなお母さんが大好きだった。
 
「お父さんもいないくせに!」
 
“リーダー”の女の子がよく使っていた捨て台詞である。
普段は決して泣くことの無い気丈なまどかちゃんが、
この時ばかりは必死に涙をこらえていたのを私は知っている。
 
まどかちゃんはいつも言っていた。
 
「自分が“お父さん”の分までお母さんを守るのだ」
 
と。一方の私は、そのころ守られてばかりだった。
お父さんに、お母さんに、まどかちゃんに。
私は初めて、自分を恥ずかしいと思う感情を知った。
 
 
~~~

 
卒業アルバムの“大好きなおともだち”の欄に名が残る彼女とは、その後小学校が別れた。
文通を続けて数年がたったある日、まどかちゃんから一通のハガキが届いた。
 
『今度お父さんができます。弟も生まれます。
ドキドキするけど、とっても嬉しいです。
苗字が変わってお引っ越しもするけど、これからも仲良くしてね』
 
見るからに嬉しそうな字が踊っていた。
私は、その報せを素直に喜べなかった。そしてそんな自分に複雑な思いを抱いた。
 
「“お父さん”が欲しい」
 
と決して口にしなかったまどかちゃんが、本当はどれほどその存在を渇望していたか、
自分の父親に抱きあげられた彼女の紅潮した頬を見て知っていた。
きょうだいを望んでいたのも、同じ立場にあった己を省みて気づいていた。
まどかちゃんの幸せを喜ぶべきだ、と頭では解っていた。
それでも、嫌だった。まどかちゃんの苗字が変わってしまうことが。
自分にとっての英雄(ヒーロー)が、何だか別の人間に変わってしまうようで。
寂しかった。まどかちゃんが遠くに行ってしまうことが。
もう傍にはいられない、助けてもくれない、助けることもできない場所に行ってしまうことが。
 
実のところ、私はまどかちゃんの“お父さん”となる人間に嫉妬していたのだ。
“お父さん”は、きっとまどかちゃんのことも、まどかちゃんのお母さんのことも守れる。
あまつさえ弟という宝物まで与えることが出来るのだ。
まどかちゃんにとっての英雄(ヒーロー)ではないか。
私の英雄(ヒーロー)はまどかちゃんなのに、まどかちゃんの英雄(ヒーロー)は私ではない。
その事実が、たまらなく悔しかった。
私は、私も、まどかちゃんを守りたかった。守られてばかりではなく、恩返しがしたかった。
そうして私がまどかちゃんを求めるのと同じくらい、まどかちゃんに私を必要としてほしかった。
英雄(ヒーロー)になりたかった。
まどかちゃんを、彼女の守るお母さんごと守れる、強い人間になりたかった。
実際は、お父さん(ヒーロー)には大人の男の人しかなれない。
小学生の女の子だった私は、そんな現実から目を背けることしかできなかった。
そのハガキが届いて以降、私はまどかちゃんに手紙を書くことをやめた。
 
 
~~~

 
恋心というのは、風のように吹き過ぎてから初めて気づくものなのかもしれない。
 
ああ、あれは初恋だったのかもしれないな。
 
ふとそんな思いが浮かんだのは、まどかちゃんと連絡が途切れてから
数年が過ぎ去った高校生の時だった。
私はその時も、同性に恋をしていた。そしてそんな自分に戸惑っていた。
好きな女の子は、やることも言うこともどこか懐かしい存在だった。
 
そうだ、まどかちゃんに似てるんだ――
 
そう思った途端、私は唐突に己の恋心を自覚した。
そのころ、異性への初恋はとうに終えていた。
 
何だ、同じじゃないか。
男の子を好きになる時も、女の子を好きになる時も気持ちは同じ――
 
そんな単純なことにようやく気づけた私の心は、少しだけ軽くなった。
結局最後まで想いを伝えることはなかったけれど、
彼女への想いは大切な思い出として私の中に残った。
 

~~~

 
性別を問わず恋をする私を、「節操なし」と呼ぶ人もあるかもしれない。
同性を好きになることを、理解してくれない人もいるだろう。
けれど私は自分を恥じない。
彼女の、彼の英雄(ヒーロー)になりたいと願った自分を否定することだけはしたくない。
英雄(ヒーロー)になれなかった私でも、その想いだけは本物だったと信じていたいから。
そしてきっとまどかちゃんなら、そんな私を笑って受け入れてくれる気がするのだ。
それが私だから、と。
想いを叶えたかったわけではない、ただ認めてほしかった。
たとえ怪獣のしっぽに弾きとばされても、英雄(ヒーロー)と共に戦うことを。
 
「初恋は叶わない」とは言い得て妙だ。
私の初恋は叶わなかった。否、現在(いま)でも叶わぬ恋は多い。
我ながら厄介な性癖を持ったものだ、と溜息が漏れても、私は後悔していない。
あの時彼女への想いを認めたことを。
長い髪を靡かせて可愛らしく笑う、まっすぐで芯の強い私の英雄(ヒーロー)への想いを。
 
まどかちゃんが行ってしまってから、既に十年以上の月日が流れた。
今の彼女は、OLとして毎日を忙しく過ごしているのだろうか。
早めの結婚をして、お母さんになっているのだろうか。
どちらでも良い、私よりも、“お父さん”よりも数倍素敵な
英雄(ヒーロー)と巡り合ってくれることを、私は心から祈っている。

 
まどかちゃんは、今でも私の大好きな友だち。
そして大切な、大切な初恋の英雄(ヒーロー)だ。
 




後書き
 

拍手[1回]

PR

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:
   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック