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子どもに対してはなるべくまっさらに育てる努力をすべきだと思う。大人の見方を押し付けないで、透明な見方ができるように。その子の将来を考えたら、何だかんだ言って真ん中の人間になるのが一番幸せじゃん。あえて生きづらい生き方はしてほしくないじゃないですか。大人になって自分の考えを確立した上で行きたい方向が決まったらそっちに走って良いし、それを認めてもらうための行動も全然かまわない。そうなった時に耳を傾けたり背中を押してあげたり、ってのが親や社会の役割だと思うし。
でもそこに行きつく前の子どもには、やっぱり真ん中の指標が必要じゃないか。それが不安定だったりズレてたりしたら子ども自身の軸が歪んで、凄く不安定な人間になってしまう。沢山の人間が集まって輪があるんだから、中心は決まってるというか決めとかないと成り立たないのが現実だし。中心がある、という見方をまず否定しろ、と小さい内から言われ過ぎると「やばい、真ん中にずっといたらつまんないヤツってガッカリされる」とかの強迫観念が生まれる可能性もあるし、こだわり過ぎて浮いちゃったり。同じでないといけない、も違ってないといけない、もどっちも間違ってるんじゃん?最近の流れは個性がないとダメとか多様性を受け入れられないと狭量、って感じになり過ぎてるようで若干戸惑う。本当に色んな価値観を大事にするなら、そういうのに馴染めない人の逃げ場も確保しないといけないんじゃ、と思います。
あと子どもはやっぱり親の影響が大きいから、親が極端だと真ん中でいられたかもしれない子でも生きづらい道に踏み入る率が上がってしまうような。ベースが迷子になったらアイデンティティの確立は難しいし、そういう例が増えれば世の中全体が基準を見失って揉め事が増えてしまったり、ってことはないだろうか。そもそも不安じゃないのかな? 自分みたいなキッツイ思いをその子に将来させるかもしれない、って怖くならないんだろうか。法で認められれば将来的にみんなが受け入れて解決する、と本気で信じてるのかな。逆に彼らを認められない側の反発が行き場なくして過激化するんじゃ、とかそれで子どもに害が及んでしまうかも、とか色々あるじゃん・・・。子どもはモノじゃなくて人間だから、その他人の一生を左右することになるって考えると自分ならあきらめざるを得ない。権利は基本的に自分一人が責任を負える範囲でしか主張したり行使しちゃいけないものだと思うから。そこを飛び越えてしまったら、ただのエゴイズムか自己満足って言われても仕方ない気がする。
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お天気おねーさんのだんみつさんを見ててたぎった思いをぶつけたかったんですよねぶっちゃけ。でも普通に日本人のオッサンだと生々しいのでちょっと場所を置き換えました(笑) 兄弟は結構歳離れてる設定で、マクシムは割と歳いってます。おじさま、おじさま!(゜∀゜)o彡フウフウッ! ちょっとハーレ(読んだことないけど)っぽくしたいなー、と思いつつ・・・名家の当主でおじさんっつったらマクシムだろ、とかでこんなキャラに。いやもっと遥かにえげつない感じですが。少女が人妻になって道を踏み外すとか萌えるよねー、鉄板ダヨネー。で旦那が黒幕とかねぇ。全方位矢印の多角関係が好き過ぎるので兄弟間の感情も気持ち悪い感じになってしまいましたm(_ _)m いつものことか。
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『マクシム・ヴァーノン氏 日本人令嬢と婚約』
『ヴァーノン商会 東洋への販路を大幅に拡大』
『真の国際調和に向けて――名家の新たな一歩 ミサキ・ヴァーノン夫人』
フェルナンが幾度となく握りしめ、破り捨てようとして思いとどまってきた新聞記事に並ぶ見出しは酷く大仰でわざとらしいものだ。急拡大する貿易額と移住者たちのコミュニティに対する警戒がささやかれる中、あえてこんな記事を一斉に載せ出した新聞社には、何らかの働きかけがあったと考えるしかない……我が兄ながら、全く卑劣ではないか。パサリとそれを投げ捨てて、フェルナンは爪を噛んだ。脇腹ではあれ、ヴァーノン家の邸宅に育ち男振りも良い彼を、周りの女性たちが放っておくことはもちろん無かった。適度に火遊びのようなことを仕掛けられたりもしてきたけれど、あの家で唯一自分を気にかけてくれた“家族”に、自ら紹介したのは海咲一人だけだ。その意味を、兄が察しなかったはずはないのに――何故今その彼女が、兄の腕の中で赤ん坊を抱いて微笑んでいる写真を見る羽目になったのか。
『近頃の世の中は東洋人への反発が増しているようだな……うちの商売にも、そのうち影響が出るかもしれない』
その言葉をマクシムの口から聴いたのは彼女を引き合わせた直後。誰よりも愛情と援助を受けてきたと信じる兄にそんな反応を返されれば、フェルナンは三日に一度訪れていた海咲の家へ足を向けることに呵責を感じざるを得なかった。初めは、こちらの言葉を教えてほしいと言われて――フェルナンによって少しずつこの地に馴染み、段々ときちんとした会話が成り立つようになっていく様が嬉しかった。いつも一族の味噌っかすで、教えられる立場、庇護される側だった彼が、ようやく導き守るものを得たような――加えて屋敷の主は異国人で、この地独特の重苦しい伝統やしがらみにも、彼女は縛られていなかったから。少女の傍は青年にとって、初めて感じる居心地の良い場所だったのだ。いつか己が兄に迷惑をかけずとも済むほど独り立ちできる日が来れば、そのころには兄もわかってくれるだろう。将来はあの丘の上に、きっと彼女を迎えに行きたい。だからそれまでは精一杯、家に、マクシムに尽くすのだ。いや増す忙しなさに目の回る日々を送りながら、フェルナンはこれまでの人生で最も真面目に兄を手伝い、ヴァーノンの仕事に精を出した。突然命じられた支社の開拓も、その夢への大きな一歩になるだろう、と……成功させれば一度くらい、訪うことを許されるだろう、と。そう信じて帰って来たのに。その時、故郷は名士と東洋人の結婚、公平なる実業家の合理的な決断に沸いていた。
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『フェルナン・ギルモア氏 兄の商業主義を批判“彼は伝統ある一族の当主としての誇りを忘れている”』
『経済の東洋依存偏重を危惧――ギルモア社社長 実家に苦言か』
マクシムは開いていた新聞を閉じ、横で心配そうにこちらを見つめる妻に向かって微笑みかけた。酷く穏やかで品の良い、いつも彼女に対して作り上げるその顔を。
「大丈夫だ、ミサキ。あいつは幼いだけだ……いつか、くだらないことだと気付くさ」
彼がそう声をかければ、彼女はホッとしたように息を吐き出し、ゆるりと顔をほころばせた。ちょうどゆりかごの赤ん坊が小さく泣き声をあげ、慌ててそちらへ駆け寄っていく背は、未だ細く頼りない。その光景にこみ上げるのは、深い満足と優越感――本当に愚かだ、我が弟は。
マクシムが海咲との婚約を新聞に大きく書かせたのは、誰の目にも明らかなよう誇示するためだ。もう彼女は自分のものだと。それによって得る利益、神の御前での婚姻の契約、物理的にも精神的にも、もう離さないし、逃げられないのだと知らせるために。上流階級でありながら人種への蔑視を捨てた、として一部市民への人気は高まり、彼女を通じてアジアの国々へのコネクションが増えたことは確かだが、彼にとってそれはほんの副産物に過ぎない。周囲がそれを取り上げれば取り上げるほど、必然的にマクシムと海咲の結婚後、末席の成金ギルモア家に婿入りしたフェルナンとの亀裂は深まっていった。貴族の名を金で買ったギルモアは今やヴァーノンの商売上の敵となり、公明正大な取引・実利的販路の拡大を目指すヴァーノン商会とは対照的に、ギルモア社は人種による優遇制度・従来の価値観を守り抜く姿勢で逆に愛顧する客を掴みつつある。
フェルナンの妻・ギルモア家の一人娘はマクシムと結婚式のただ一度顔を合わせたことしかないが、肌が白いことと目の色の鮮やかさしか褒める箇所を見出せない、太ったトドのような女だった。昔から“本物”に囲まれてきた弟が、決して愛するはずがない――きっと彼は、心を残しているはずだ、今や兄の妻となった海咲に。マクシムは口端を上げた。証拠に、フェルナンはあの日以来一度も彼らの屋敷に顔を出しはしないではないか。マクシムと海咲が結ばれた日の、あの感情を一切排した茫洋たる虚無の瞳。おしゃべりな唇を引き結んで、賑やかな身振りすら全く見せない弟の姿を見るのは新鮮だった。おかしくてたまらず、同時に酷く興奮した。それはまるで、海咲と共にする褥の中で味わう快楽のように。彼女に対して普段は紳士的に仮面を張り付け続けるマクシムも、閨の中ではどうも本性に還ってしまうのだ。真っ赤に染まった目じりから潤んでこぼれ落ちる雫が肌を濡らした時、そして絹を裂くような声が、ぽたりと熱い紅色の狭間から鳴り響けば――酷く泣かせてしまいたくなる。そんな彼に、妻は時折怯えているのかもしれない。
自らが商売戦略のための道具と言われることをとても気に病んでいる海咲。フェルナンとの対立の原因を誤解し、自らを犠牲にしてでも兄弟の仲を修復させようと彼女は日々必死のようだ。ああ、こんなにもけなげで愛しいおまえを、私は決して手放すものか。たとえ何が起きようと、おまえは、おまえたちはこの手に繋ぎ続けよう。
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海咲がその男と突然の再会を果たしたのは、夫マクシムが彼女の故国へと旅立ったすぐ次の日の出来事だった。
「今日、君たちの婚姻を無効だと訴える裁判を起こしてきたよ」
応接間に現れるなり、まるで天気の話でもするかのように何気ない調子で告げた彼の瞳を、海咲は信じられない思いでじっと見つめた。
「フェルナン、どうして……? そんな酷いこと」
かつての友人、今は義弟となったはずの、苦い初恋の思い出。遠ざかってからも一体なぜ、彼は苦しめ続けるのか。
「酷いのはどっちだ!」
いつも明るく影を見せなかった青年の震える声に、彼女は目を見開いた。
「君はどうして、マクシムなんか選んだんだ!? あいつは君のことを道具としか思っちゃいない、アジアのことだって、商売上の狩り場としか見ていないんだ! 何故……どうして、よりによって」
俺の兄を――小さな呟きに、女はそれまで浮かべていた怯えを拭い去って不思議と凪いだ表情を浮かべた。
「いいえ、それは違う……。マクシムは私を想っている、あなたを弟として愛するのと同じくらい確かに。それに、……フェルナン、彼はあなたのお兄様だから」
一度言葉を区切った海咲を見つめる彼の瞳に、驚愕の色が乗る。
「あなたより私を、上手に愛せると思ったのよ」
海咲は告げて、底知れぬ深い眼差しをまっすぐに男へ向けた。マクシムは胸の内で下層の者や異人種・己と違うものを蔑みながら、それを気品という鎧で上手く覆い隠し、或いは時たまその隙間から覗く目で睨めつけることで、あえて見せつけるタイプの男だ。その上で“海咲だけ”にその鋼の手を取ることを許し、彼女に己を特別な存在だと感じさせてくれる。ところがフェルナンは、誰に対しても己の本心を隠さない。差別も偏見も全てをさらけ出しながら、露わになっているが故に“海咲自身”への好意を素直に受け入れてはくれなかった。海咲の方にもそんな彼の手を取ることへの抵抗が少なからず生まれてしまった。彼女は確かに東洋の血を継いでいるにも関わらず、異国での暮らしが長くなるに連れ、それを誇りに思う気持ちと嫌悪する気持ちの両方を育んできてしまったから。自分を失いたくない、自分ではないものになりたい、侮辱されると許せない、けれど特別に扱ってほしい。そんな彼女の我がままを、マクシムは上手に拾い上げた、ただそれだけのこと。
「……っ、クク、あはははは!」
彼女の話を黙って聞いていたフェルナンは唐突に身をかがめ、やがて激しく笑い出した。
「馬鹿だな、ミサキ。君は本当に愚かだ! ナンセンス、茶番だよ……だって俺は、あの人に育てられたんだ」
“上手に愛せる”人間が、今の俺のような男を生むと、君は本当に信じているの?――言われた言葉を、伸ばされた手を、海咲は拒むことができなかった。
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「ねえ、ミサキ。今は髪の毛一本あれば、本当の父親がわかるんだって。その赤ん坊にそれをやったら、俺の起こした訴訟は必ずや有利になると思わない?」
過ぎた歳月は一年に満たない。世界を飛び回る主人の屋敷で、産声を上げた二人目の子供は人形のように整った顔をしていた。
「自らの立場と引き換えにして、やる価値があるとお思いなの?」
眠る子供を見つめたまま、彼女は義弟に返事を返した。
「そうだよ、それでも良い。俺はそれくらい、どうしても君が欲しい。……そしてあいつに、復讐したい」
ギラギラと燃える青年の瞳を、海咲は悲しく見つめるだけ。
「……あなたはやっぱり、上手に愛してはくれないのね」
己に似たところの無い、月足らずで生まれてきたはずの赤ん坊のふくよかな姿にマクシムは何も言わなかった。クルクルと巻かれた髪が“誰か”を思い起こさせても、長男への態度と変わらず次男にも良き父親であった。あまつさえ幼いころから有無を言わさず母国の名門校へと送り込んだ長男とは対照的に、次男には自由を与える寛容さを見せた。今、彼が通っている学校はギルモア家の近くにある。息子を訪ねるという名目で海咲が度々その小さなアパルトマンを訪っているのを、マクシムは確かに知っているはずだ。けれど、彼は何も言わない――ただあの優しい笑みを浮かべて、柔らかな棘を突き刺す微笑で、静かに妻を送り出すのだ。海咲は酷く苦しくなる、そして恐ろしいと、それでも彼女は止められない。捕らえられ、その策に乗った己と彼らの過ち――否、一体何が間違いだというのだろう、これは私たちの、誰もが満たされる正しい蜜の味ではないのか。そう思わせることこそがきっと、彼の“上手な愛し方”。陰湿でほの暗いその罠に、一度嵌ってしまったならば――誰も、どこへも脱け出せはしない。
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「紹介するよ、ミス・ミサキ・トヨダ。新しい……友人だ。港の近くの丘の上の屋敷に住んでいて、こちらの言葉を学んでいるところなんだ」
常には過ぎるほど自信をみなぎらせて言葉を途切れさせることなど決して無い、向こう見ずな若々しさを具現化したような弟が、珍しく言葉を選ぶように口を淀ませながら視線を送る先は華奢な黒髪の少女だった。丘の上の古い屋敷が得体の知れぬ東洋の成金に買われたらしい、と耳にしてはいたが――よりによってフェルナンが、何故こんな小娘に。地域の名士たる兄として、彼女に引き合わされたマクシムが初めに抱いた感想はそれだった。
「フェルナンの兄、マクシムだ。お会いできて光栄です、レディ」
小さな手を取って口づけると、指先が戸惑うようにピクリと震えた。普段から男も女もなく、些か乱暴なスキンシップの多い青年の“友人”だというのに、おかしなこともあるものだ。思わずこぼれそうになる嘲笑を堪えて顔を上げれば、聞きなれない響きの名を持つ女は小作りの顔を赤く染めて、もごもごと唇を動かした。
「常世田海咲と申します。こちらこそお会いできて嬉しいです、ミスター・ヴァーノン。……フェルナン様には、本当にお世話になっていて」
少し気恥ずかしそうに弟をうかがう表情(かお)は、いかにも恋する乙女のそれ。熱のこもった眼差しを受け止めるフェルナンの照れるような、それでいてどこか誇らしげな様は彼の心の柔らかな部分を酷く刺激した。幼い頃から見知っている腹違いの弟のこんな姿は、実質的な後見人として彼をずっと庇護してきたマクシムとて一度も見たことが無いものだ。甘くとろけたこの場の空気も、初対面の黄色い女も、弟のふぬけたその眼差しも――ああ、全てが苛立たしい。
「いや、フェルナンは中々の問題児でね。きっと君に迷惑をかけることの方が多いだろう? ミス……ミサキ、と呼んでも?」
紳士然とした兄の問いかけにフェルナンは一瞬片眉を持ち上げたが、海咲はホッとしたように強張っていた頬をゆるめた。好意を寄せている相手の家族に、ひとまずは受け入れてもらえたようだ――純粋にそう感じている表情。
「もちろんですわ。……よろしくお願い致します、ミスター」
名を呼ばせるのは、まだ早い。ふわりと匂った花の香りに、彼女の持つ色彩でミサキを認識していたマクシムは目を見張った。よくよく聞けば耳に届いた声もまた、高く透きとおる不思議な響き。細い指には見た目からは意外なタコ――それも所謂武術をたしなむもののそれがある。おそらくは何年もかけて皮膚に染みついたものだろう。東洋の女性は屋敷の奥深くに押し込められ、ろくな運動もせずに育つ、という噂とは少し違っているようだ。一方で綺麗に切り揃えられた桜色の爪は、海咲がその手入れを怠っているわけではないことを確かに物語っていた。
……判断が付きかねる。海咲を送っていく、と言って馬車に乗り込んだ弟の背を見送り、マクシムは顎に手をかけた。わずかな時間に随分と膨れ上がってしまったものだ。それは興味か、はたまた欲か――フェルナンの? それとも自身の? 踵を返して自らの書斎に腰を下ろし、マクシムは自嘲と共に首を振った。フェルナンはあの指にどれほど触れたというのだろう? 白く滑らかな肌を好み、その下の苦しみを看過しないはずの、愛すべき甘ったれである弟は。突如、ひらめいた考えにマクシムは口端を持ち上げて立ち上がった。向かう先は電話台。彼の脳裏には先ほど別れたばかりの二人の姿が浮かんでいた。父の気に入りの愛人だった母親によく似た、鮮やかな巻き毛に彫刻のように整った造作の弟。丸い目、小さな鼻、ふっくらした唇に艶やかな黒い髪の少女。二人が見つめ合い、微笑む様は酷く可愛らしいものだ。あの細い腕はどれほどの柔らかさを秘めているのだろうか、抱きかかえるのも容易だろうあの身体はどれほど敏感に震えるのだろう、底知れぬ深い瞳の瞬きはどれほどの高揚をもたらすのだろう? 口づけ一つで身じろぎしたあの指、あの手を、自分が握ったとすれば――その時、弟は。考えれば考えるほどゾクゾクと、マクシムの背筋をおぞましさと一体の愉悦が走り抜けていく。危うい想像はどうしても止まない――止められない、欲しくなってしまったのだ。彼女が、そして己の知らない弟の姿が。
マクシムは躊躇しない男である。ビジネスや社交において、彼のその態度を潔いと褒める者もいれば、余りに惨いと非難する者もいる。一見すれば極端なまでの二面性、だが彼自身にとっては、実に合理的な判断に基づくもの――“己はそれを望むか”ただそれだけが行動基準だ。彼の次の獲物となったフェルナンと海咲の間には、未だいくつもの小さな越えられぬ溝があった。その数を数えることすらできぬから、二人は今も“友人”のまま。国の違い、人種の違い、何より彼らが異なる人間であるという事実を、フェルナンと海咲はそれぞれ見て見ぬふりをしていた。相手に嫌われなくなかったから、遠ざかりたくなかったから。少しでも、近くに在りたかったから。見せないようにしていたのだ、そして知ろうともしていなかった。そんな二人が、どうして真実手を取り合える? マクシムはもどかしいその距離に付け入る隙を見出した。淡く幼い恋の芽を、摘み取るでもなくじわじわ枯らしてしまう術を。
フェルナンはマクシムの弟ではあるが脇腹であり、父が亡くなった今となっては当主マクシムの裁量なしには自由に身動きも取れぬ身だ。東洋人を家に入れれば商売上のリスクが大きい……育てた恩を仇で返すつもりか――いくらでも言い様はあったのだ。彼が丘の上の邸宅を訪う機会は、当主の意を汲んだ使用人たちの渋い顔もあって段々と減っていかざるを得なかった。そのことに沈み込んでいく海咲の元を、港で雇った馬車を使って密かに訪っていたのは兄のマクシムその人だ。買い付け先の物珍しい土産、あるいは季節の花や短い手紙、時に名を馳せた職人の手による菓子といった様々な心づかいを繰り返すマクシムに、海咲は心を開いていった。不慣れな環境と言葉に戸惑い、親しい友人からも距離を置かれた異国の少女を、丁寧に労わる名家の主――誰がどう見ても、完璧な構図だったのだ。
西に新たな支社を構えることを口実に、とうとうフェルナンをそちらに追いやり気兼ねなく丘の上の屋敷を訪ねるようになったマクシムは、海咲の前でいつも酷く優しげな、品の良い笑みを浮かべていた。彼女は“友人”と遠ざかった真の理由を知りはしない。大人になったフェルナンが、自分のような娘にかまけていたことを恥と気づいて去っていったのだ、と信じている。そして身内が傷つけたであろうものを哀れんで――そんなくだらない理由で、マクシムが細やかな気配りを見せるのだと。本当に愚かな女だ。愚か、故に愛しい。彼はますます笑みを深めた。素直で従順な女。馬鹿ではないがでしゃばらない、余計なことをしない女――更に言えば、誰より可愛いフェルナンの心を、恐らく初めて掴んだ女だ。それだけで付加価値は他の何倍にもはね上がる。こんなにも愛すべき存在が、果たして他にいるだろうか?
「結婚してほしい、ミサキ……あなたが好きだ」
隣に並んで花を愛でていた庭で彼が彼女に囁いた時、海咲は何かをためらうように、手の平を固く握りしめた。
「確かに私と君は、フェルナンを介して知り合った。……けれど今はもう、そんなことは関係ない。私自身が愛しているから、今までこうして」
言葉を区切ったマクシムを、じっと見上げたつぶらな瞳――束の間見開かれた後、そこからはみるみる雫が溢れ出した。すがるように背に回された手が彼のシャツをそっと掴み、細い首が頷く気配を見せた時、屋敷の中で唯一主の故郷を思わせる玉砂利がジャリ、と踏まれる音がした。手にしていた鞄を取り落として呆然と佇むフェルナンの姿に、こみ上げそうになる笑いを堪えてマクシムは身を震わせる。本能で予感してしまったのか……何て間の悪い、いや絶妙だ。何が『関係ない』? 大嘘だ。そんなこと、あるわけがない。弟が連れてこなければ興味を持つことはなかったし、彼のあんな顔を見なければきっと惹かれることもなかった。必然なのだ、彼と、彼女とあの出会いが――海咲自身は確かに欲しい、愛している――けれどこうなった今、“もし”なんて問いは成り立たない。
「すまない、フェルナン……」
口から滑り出た言葉と共に、胸の内で密やかに囁かれた本心を、彼はごくりと飲み込んだ。ありがとう――それは極上の蜜の味。
→後編:『For The Destiny』
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初めは正直陳腐な腐女子マンガかよ…(-_-;)と期待はずれな印象を受けたんですが、一巻ラストのエピソードに感動した。そして終わりよければ全て良しになる、というかここまで言わせたかったからそれまでの不条理と厨二の諸々が出てきたのねー、と。生きて生きてがむしゃらに生き抜いて死んでいった人は惨めなんかじゃなくて立派な人、そういうものを描きたいと言うフィンセントの率直さが救いになる。過去の思い出を必死に抱きしめながら生きたって良いし、手に入らない?のにずっと執着し続ける生き方だって悪いとは限らない。社会的に正しいとか間違っている、というのは世の中が決めることかもしれないけど、それぞれの人生の良し悪しは個人が判じるものだと思うから。
35才の高校生(最終回だけ見た)の中で、価値観なんてみんなバラバラで当たり前だけど、だからこそそういう人たちが同じ場所に集まって一つのクラスを作り上げることに意味がある、みたいなセリフがあってちょっと胸打たれました。最近は価値観が合わないやつとは付き合わなきゃ良い、って流れになってるけど、やっぱり違う人の話も聞いてみたいよなー、と。その上で相手と実際やってけるかどうかは微妙なところだけど(笑)「いやいやいやいや・・・理解できん」で終わるんじゃなくて、とりあえず聞いときたい。何で?ってことが沢山あるのに聞けない雰囲気だと困る。
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