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ほぼ対自分向けメモ録。ブックマーク・リンクは掲示板貼付以外ご自由にどうぞ。著作権は一応ケイトにありますので文章の無断転載等はご遠慮願います。※最近の記事は私生活が詰まりすぎて創作の余裕が欠片もなく、心の闇の吐き出しどころとなっているのでご注意くださいm(__)m
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かたい・・・何かこう何もかもが硬くなる。身の丈に合った軟らかさはどこで手に入るんでしょうか?(´Д`) 時事にも萌えを求めたい自分的に最近の流れきっついです(除く平和しょ(ry) あとNHK杯のチケット取り逃しちゃった件orz でもまぁ来月再来月はヅ観劇に行く予定なので、何とかそちらで萌えを補って意欲を養おうと思います!

拍手下さった方どうもありがとうございました。一つ一つありがたく頂戴しております。
以下Akko様へ、お返事です。

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Akko様

ご訪問ありがとうございます。拙いブログではございますが、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。


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Summer Snow』雪夏の夫・由樹編。

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「来るぞ! 東を守れ!」
 
深い森の茂みに身を潜め、恐らくは最後になるであろう攻防――最早一方的に攻められているだけではあるが、の中、由樹は声を張り上げた。上を見れば木立の隙間からギラギラと燃えるような日が降り注いでいる。汗は止めどなく鎧の内を蒸して濡らし、携えた刀がいやに重い。先ほど銃弾に掠められた左足からの出血はまだ収まっていないようだ。霞みそうになる意識の中ふと、己を陣へと送り出す妻の真剣な瞳が脳裏を過る。
 
『ご武運を。もし……もしもあなたとこの国が救われるのなら、私は』
 
酷く思いつめた雪夏の眼差しに、由樹は細い肩にそっと手を置き首を振った。その先を告げてはならぬと。確かに練を戦に巻き込んだのは環だろう。環を裏切れば――帝国であれ西であれ、どちらに下るにせよ彼の命と民の名誉は保障されるのかもしれない。環の太守の娘、只今の敵・オーデンの王子のかつての許嫁であり、かの地で育った彼女がそれを口にすることは許されていないのだ。静かな深い黒の瞳は、涙をこぼすまいと懸命に見開かれていた。
 
「余り、惨い仕打ちはしてくれるなよ……」
 
そう、今己が向き合っている敵軍の大将が妻の元許婚を押しのけて太子の位を得た者なのだと思い出し、思わず密かな呟きが漏れた。
東では西とは異なり、一つの巨大な帝国の中に分かたれた小さな国々を帝国から太守の任を認められた長が統治する、という制度が長く続いてきた。月日と共に制度は崩れ、ただでさえ上辺を取り繕うに過ぎぬものと見られた帝国の権威は、都から遠ざかれば遠ざかるほど薄れ、地に落ちて行った。自治権を強めた諸国は各々が独自の道を模索し、互いに小競り合いを繰り返すようになる。そこに浸けこんできたのが、オーデンを含む西の国々だった。彼らは果ての国である環に海から近付き、貿易や学問の功をもって彼らを取り込むとしきりに東の体制の“異常”を吹聴し帝国からの独立を促した。その一方で帝国には毒にも等しい枯れた草の葉を高値で売り付け、内側の腐敗をますます深刻なものにした。両者の対立を煽り、武器を売り付けて、荒稼ぎした結果が今度(こたび)の戦だ。初めから、東の地を奪い取る口実を得ることが目的だったのだろう、環を利用し、足がかりとして彼らは帝国に手を伸ばす――
 
「このような時勢の中で、我らが国を名乗るようになるとはな」
 
皮肉な言と苦笑がこぼれる。潮の匂いを孕んだ風が、血に汚れた由樹の頬を荒く撫ぜた。
練は元々帝国の南の海に浮かぶ小さな島であり、帝国の諸国の一部というわけではなく、けれど帝国と全く関わりを持たぬわけではない、という曖昧な立場にあり続けた。島の統治者は首長と呼ばれ、代替わりをすれば大陸に出向き近くの国の太守に目通りし、また商いや漁においても帝国の名の元に大きな庇護を受けてきた。何代か前の首長の中には、都に赴き直接皇帝の拝謁を賜った者もいると聞く。けれど近頃西の輩が大洋を超えるようになり、島を取り巻く環境は大きな変化を遂げたのだ。
良くも悪くも帝国の支配は、己に従う姿勢を見せる限りは放っておき、政のやり方は現地の者に丸投げするというものである。仇為すものが入ってきたとて、都に害が及ばなければ――むしろ都が穢されるくらいであれば、容赦なく周囲の土地を身代りに差し出す、そのような考え方が中心だった。南に浮かぶ小さな島、格好の貿易拠点である練はそう見なされ、続々と訪れる西の蛮族の横暴をいくら訴えても、家財を奪われ畑を毒の葉の畑に変えられていく島民の窮状に助けを求めても“帝国”からの反応はなしのつぶてだった。
 
『何という酷い有様だ……何という、』
 
“帝国”に属していた人間で唯一島を訪れ、そう嘆いてくれたのは遠い環の国の太守。彼らが急速に西に接近しつつあることは既に広く知られた事実であり、初めは警戒感を隠せなかった由樹の心を、その一言はいささか緩め、温めた。
 
『我らは我らの国を、土地を、民たちを守りたいのだ。帝国にはそれができぬ。今のままでは、全てが西に奪われる。……ならばせめて、東の地に我ら在りと、示せる立場にならなければ』
 
いっそ悲壮な覚悟を帯びて輝く瞳に差し出された手を握ったのは、純粋な共感と子供じみた憧憬のせい故ではなかった。既に西の植民地も同然の地であればこそ、東と西の戦にならば真っ先に切り捨てられる地は練だろう。国とすら認められず、未開の島として扱われてきた練は、古くからの家筋である太守が治め、西から最新の学を得た環からも対等に見られることは無いかもしれない。それでも、彼らはきっと共に戦うことができる。一方的に見捨て、あるいは搾取するような関係ではなく、彼らに与え、また彼らが与えるであろう(・・・・・・・)何かが、それを構築し得る関係が未来のこの地のためになるのではないか――? そうして由樹は、環の太守より与えられた“練”の国号と太守の地位を受け入れた。
 
『……娘がいる。名を雪夏、間もなくこちらに戻ってくる。……オーデン、西の地よりな』
 
それから時を経ずして、環の首都。向かい合う相手のいつになく顰められた眉からは、彼がこの特殊な状況で帰ってくる年頃の娘を心から案じていることが見て取れた。何故その日自分が呼ばれたのか、それを悟れぬほど由樹は愚かではなかったから。
 
『暫し時間をいただきたい、両国の絆を固めることに異存は無いが、私の一存で済む話とは思えませぬ』
 
従順な臣のように答える己の声を、どこか遠い場所で紡がれた言葉であるかのように彼の耳は拾っていた。
 
『西の夷の手垢のついた女子を伴侶に迎えるとおっしゃるか!』
 
東の地にいつの間にか入り込み、諸国への圧力を増す西に対する民の感情は甚だ悪い。ことに直接西の者どもの蹂躙を受け、島民たちが奴隷のように扱われた、生々しい記憶の残る練では尚更だ。太守がオーデン王子の許婚として数年をかの地で過ごした妻を娶ることに、臣たちの論議は白熱した。それでも結局、練が戦に巻き込まれることを避けられない以上、東においては最も西の理に精通した環との同盟を深めることはやむを得ないと判断されたのだ。それに加えて、由樹自身には一国を預かる者としての打算の側面も大いにあった。いくら鬼と称される西の人間であっても、五年の歳月を共にした許嫁に全く情が生まれていない訳がなかろう、と――まして今となって考えるに、雪夏は美しく気だても良い。……それともそれは、身内となった彼女へ向ける彼自身の欲目だろうか。
 
『はじめまして、由樹様。雪夏と申します、末永くよろしくお頼み申し上げます』
 
つつましやかな微笑と共に床へ手をついた女は彼の想像とは違い、穏やかで控えめな風情をまとう小柄な少女だった。西から来た女は派手好みのあちらの文化に染まり、目にも眩い洋装をして傲岸不遜に振る舞うのだろう、といつの間にか狭量な偏見に己が囚われていたことを、由樹は初めて自覚した。
東で育った彼には西で言うところの“愛”と言う概念が根づいているとは言い難いが、共に過ごす内、できる限り彼女に幸せであってほしいという思いが由樹の胸に湧いてくるようになった。南海育ちの彼は話にしか知らぬ、静かに降り注ぐ白い雪とは、このように優しい景色を作るのだろうか――雪夏の背後に浮かぶものを見るような心地で、彼はよく目を細めたものだ。国へ向ける愛着とも、民へ向ける庇護欲とも違う。彼女自身を欲したわけでも、彼女が望んで嫁いできたわけでもなく、燃え上がるような激しい感情は二人の間に存在しない。それでも確かに、同じ目線で同じものを見ているのだと、守りたいのだ、と共有できる思いがあった。それだけで、夫婦として、一つ家に住まう家族としては十分だと由樹は思った。

「思えば初めから、勝ち目の無い戦だったのだ……」
 
飛んでくる砲弾を見て、苦々しげに由樹は吐き捨てる。撃つ対象を定めるでもなく、死に行く者の顔も見えぬまま敵を屠る相手のやり方は、彼の目に到底好ましいとは映らなかった。許せないとすら感じるが、味方の身を守り敵を数多く殺す、と言う意味で確かに彼らは優れている。その技術力・資源力――妻から聞いた話だけでも、西は東を圧倒する。果ての国として見下され、それが故に西との細い繋がりを保ってきたかの国はきっと気づいていたのだろう、受け入れねばならぬ現実を。それでも、それに抗いたかった。だからあれほど愚かなことをしでかしたのだ、帝国を裏切り、西に迎合するように見せかけて彼らを取り込まんと立った。全ては己が地を、己が地として残したいという願い故に。西に暮らしたと言う妻が頑なに守る慣習を目の当たりにし、由樹はそう思わざるを得なかった。本当は誰もがそう願い、そのために争っているのかもしれない。戦わなければ奪われる、奪わなければ失ってしまう――あるいは西の輩もそんな観念に支配され、これほど惨い仕打ちができるのではないか。初めに掲げた理想はどうあれ、今の環とて同じこと。練の文化を、燐の言葉を、環は“一つ”にしようとした――全てを“同じ”にしてしまえば、奪われることはなくなるから。失うこともなくなるから。
 
「それでも、私は……」
 
おまえを娶ったことを悔やむことも、おまえの国を恨むこともないだろう。幸いあれ、この祈りを“愛”と呼ぶのなら――
猛烈な爆音とともに激しい土煙が由樹を襲う。既に音を発することもできない唇から苦しい息を吐きながら、どこか冷静に醒めゆく頭の片隅で彼は妻に呼びかけた。今、倒れゆく東に在るのはただ人々と土地だけだ。貧しく痩せ衰えた彼らと、腐り果て疲弊した社会。彼自身とて初めから負ける日を考え、利用するつもりで妻を娶った。滲む切なさと悔恨を押し込めて、由樹は静かに自嘲する。せめて王籍に留まっているという彼女のかつての許婚が、仁ある者であることを祈るしか、今の彼にはできなかった。その男と雪夏を引き裂いた眼前の敵が、東への強硬論を唱えついに彼らを打ち破らんとする目的に過った一抹の悪寒と共に、由樹の身体はグラリと傾く。眩しい夏の日差しが燦々と照りつける、蒸し暑い午後のことだった。








→関連作:秋に漂う春に恨みし


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Summer Snow』関連作。東アジア風。薬物・近親間の恋愛を想起させる描写があります。

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ふう、と白い煙を吐きだして、秋櫻は卓子の上に煙管を置いた。魂がゆうるりと、煙と共に漂い出ていくようだ。西から来たという枯れた草の葉がもたらしてくれるものは、甘い香りと酩酊感、そして強い快楽とその果てのとめどなく堪え難い虚無。それでも彼女は手放せない、束の間の夢を見るための道具を。
 
「それで、兄上様はどうなさるおつもりなの?」
 
至高の位に座す者の方を見ずして、秋櫻は薄い唇を釣り上げた。切れ長の目はぼんやりと、その黒い光を曇らせている――もう幾年も。
 
「環の隣国、燐から妃を召そうかと思っている。小国の田舎者だが、仮にも我らの血を分け与えた“王”の一族であるからな。仕方あるまい」
 
苦虫を噛み潰したような顔で溜息を吐く兄、皇帝であるその人の言に秋櫻は目を瞬かす。
 
「なぁんだ、たったそれだけ?」
 
同母妹の遠慮の無い言い草に、年若い皇帝は顔を赤らめ立ち上がった。
 
「環は果ての国ぞ! 燐が“帝国”に従うことを明白にすれば奴らは孤立し、いずれ自滅しよう。王の娘を差し出す誉れを得た燐は我らと環の間で揺らぐこともなくなり、その妃を人質として圧することもできよう。最良の判断ではないか!」
 
唾を飛ばして叫び捨て、到底優雅とは言えない足取りで去って行く兄の背を見送り、公主は口端を上げた。
 
「さすがは陛下、面白い方」
 
彼らの暮らす“帝国”――この世に唯一つの国であるのだから名など持つ必要は無い、西の夷どもは“イースタン・エンパイア”等と呼ぶようだが――が形骸化しつつあることは誰の目にも明らかだ。皇帝が世界の中心であり、支配する国々に服従を誓わせて権威を誇示するという仕組みがとうに崩れ去ったことは。個々の国への影響力は弱まり、太守や王すら時を重ね都の血は大分薄められてしまっている。彼らから忠誠心や帰属意識が失われていくのは避けがたいことなのだ。今や腐敗と因習に満ちた、沈みゆく存在なのだから――その帝国に公主として生まれた己を省みながら秋櫻は嗤った。
都から遠く離れた辺境の国・環が帝国に反旗を翻し、西の蛮族と通じたという。かの地の太守は“帝国”に属するはずの臣や民を続々と西へ送り込み、あまつさえ東の地への居住を禁じている西の民をも招き入れてその知識や技術を学んでいるという話だ。皇帝を激怒させたのはそれだけではない。環は船と武器を大量に西の国より譲り受けた。本来ならば貨幣を鋳造する都を介さなければならないはずのそのやりとりを、自国から取れる金銀をもって直接、皇帝に無断で行ったのだ。絹や毛皮、茶や香料といった他愛ない交易であるならば、これまでにも目こぼしをしてきたこと。けれど大量の輸送手段、兵器、そして学問となれば話は別だ。環は帝国に抗しようとしているのではないか――西から持ち込まれた、邪悪な思想の名の元に。そんな懸念が高まる頃、環の太守が初めて公の場で次のような宣言を出した。曰く、
 
『我らは帝国の一部として皇帝に従うものではなく、太守を君とし環の法に則って政(まつりごと)を行う独立国家である』
 
と。都は深い衝撃を受け、皇帝は激怒した。我も我もと束ねる小国全てに同様の宣言を出されれば、臣民の信を失い帝国は瓦解する。既に内側が溶け腐っていることを嫌と言うほどに自覚していた役人たちも、否、認めていたからこそ表面の権威が剥がれ落ちることを何よりも恐れたのは、当然の反応と言えるだろう。
 
『環を攻めよ! 小さき鼠が虎の尾に噛みついてどういう目に遭うか、思い知らせてやらねばならぬ!』
 
勇んで出兵した帝国側は、事態を予測した上で独立を宣言し、西の大国オーデンと結び周到に迎撃体勢を整えていた環の前に虚しく破れ去ることになる――毒の効用は知っていても太刀の切れ味は知らぬ貴族たち、金を得ることと貯めること、そのための地位を得る戦いしか知らぬ官僚たち、都人は刃の交え方も弓の射方も忘れ、また銃と砲弾の威力に全く興味を示すことなく余りにも長い時を過ごしてきた。
帝国の誇りは大いに傷つき、人々は何かを忘れたがるように――直視することを恐れるかのように、束の間の幸福を求め、まどろみに夢を追うようになった。付け入ったのは強欲な蛮族、西の者ども。夢を見られる魔法の薬、これさえあれば決して負けない。この高価な草をこれほど大量に買うことができるのは帝国だけ、帝国であったればこそ。環の地には全くと言って良いほど流通していないその草に人々はあっという間に夢中になり、公主たる秋櫻さえも何の抵抗も持たず、少しも悪びれること無く女官に勧められたそれを吸い、今も身体の一部であるかのように煙を吐き出しているわけだ。
 
「どうでもよろしいではないですか、皇帝陛下(あにうえ)。環も燐も……どうして、」
 
また新たに妃など迎えようとおっしゃるのですか、と吐き出しかけて公主は口をつぐんだ。気短でありながら小心者、幼き頃より幾度となく命を狙われ、生き延びなければ、今在る地位を維持しなければ殺される、と身を持って教え込まされ育った兄。己とよく似た細面に青白い肌、いつも固く引き結ばれている紫色の薄い唇を持つ兄をそこまで怯えさせるのは、あるいは自分の存在ゆえだったのかもしれない、と彼女は時に考える。父は女色に溺れ、その果てに生まれた子どもたちの跡目争いには一切の関心を示さずに、良くも悪くも放っておかれた。母はといえば病弱の上に酷い癇癪持ちで、伏せっているか、甲高い叫び声を上げて女官や幼子を折檻するかのどちらかだったのだ。小さな手で兄の袖を掴む妹だけが、彼にとって真実向き合い、笑顔を向けることのできる無二となってしまっても、誰が責めることができようか。
 
『あなた様が失脚なされば、お妹君が――』
 
成長するにつれ、秋櫻本人の耳にもそのようなことを兄に吹き込む輩の囁き声が届くようになった。それほど皇帝は、彼女を大事にしていたのだ。同じ腹から生まれた、けれど直接に跡目を争う必要の無い妹という存在を。皇帝が公主を降嫁させないのは、その夫が己の地位を脅かすことを恐れるためだ、と陰口を叩く者もある。臆病で怠惰な皇帝――西への弱腰も、今に至るまで環に復讐を果たせずにいるのもそのせいだと。けれど秋櫻は愛しく思う、そんな愚かで哀れな、分かち難い絆で結ばれた兄という男を。
 
「燐の件はどうなりました?」
 
卓子の向こう、金が張られた屏風の奥に向かって問いかけると、
 
「既に主に伝えてございます」
 
と静かに答える声がある。
 
「環の忍は本当に、身を隠すのが上手いこと」
 
公主はころころと、鈴を転がすように笑った。
現皇帝の手が最初についた女は、入内から半年後、湯治に出かけた先で行方知れずになった。最初の子を生むはずだった女は不幸な事故に遭い、皇帝の眼前で石の柱に潰され死んだ。皇后の地位にある者は時を経ても身籠らず、肌と爪が黄色く染まる原因不明の病に長く悩まされ続けている。その全ての偶然に関わる者を、後宮に住む者――否、都の闇に身を浸す者が気づいていない訳もない。
 
「かの姫君は、我が国が丁重にお迎えすることになろうかと存じますが……」
 
言い淀む声の主に、秋櫻はパチンと扇を鳴らして応えた。
 
「それは良かった、生き永らえる良い道ですわ」
 
妖しく笑う公主の顔に、影は黙って頷いた。兄への執着、依存、その果てに何があるのかなど秋櫻は考えない。ただ彼に、あの男に己より大切なものができることが気に食わない。彼が己ではない何かに夢中になることは、それが国であれ人であれ政であれ――長らく彼女が占めてきた部分を他の存在に奪われ、兄の視界に己が映らなくなってしまうことは、秋櫻に取って許しがたいことだった。
 
「帝国は滅びません、皇帝(あにうえ)そのものが“帝国”なのですから。愚能な臣どもが主張するのはただの木箱、とうの昔に朽ちている。本当に大切なのはその内、輝く玉たる我々だけよ。何物にも代えがたい、誰にも滅ぼせない、“血”を持つ私たちだけが……」
 
卓子に置かれた長い煙管に、再び白い手が伸びた。吐き出される煙の流れから逸れるように、影が小さく身じろぎする気配を感じ、公主は鼻で笑ってみせた。得られるものは甘い夢などではなく、ただのごまかしなのだと彼女とてよく解っている。それでも、一時であれ現(うつつ)に還る日を遅らせることができるなら――この手に取って口にするまで。例え己が身を蝕む毒であろうとも、彼女の知ったことではない。後宮の実力者、皇帝の溺愛する妹、嫁き遅れの煙管中毒――仄暗い噂が様々に囁かれる女の望みを測りかねたまま、影は室を後にする。確かな病巣、引けぬ決意。連綿と続く地の平穏が、今音を立てて引き裂かれようとしていた。







→関連作:夏に灼かれし春に恨みし


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文学館の展示に心惹かれてGET

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凄く良い買い物でした。特に海と炎の描写が素晴らしい。せっかく大河でも取り上げられてるのに、平家物語は何となく教養の一種としてしか見られていない感じがするのが残念だなぁ、と。三国志レベルに大衆化されても良いのに(´・ω・`) 武勇伝ってノリの『英雄』が少ないからかもしれないけど・・・日本ならではの敗者の美学があると思うんだよね。安野さんの絵にもそれがよく表れていて、一番美しいのが『落ち』の空の色なんですよ。それまで暮らしてきた土地・価値観・世界が失われる心細さ、子々孫々に至る絶望が物凄い伝わってくる。平家物語の主題はそこにあるんじゃないかと思います。本来なら消されるはずだったかもしれない歴史。そこに共感できるのは、やっぱりある程度経験を重ねて、底の気持ちを味わわないと表現できない世界だろうなぁ、と。安野さんがこの年齢まで生きてこられ、この作品を完成させて下さったことに改めて感謝したいです。


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行ってきました。

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まぁミイラ好きとしては外せない・・・じゃなくて、インカの統治システムとか、植民地支配後のその土地(国)と民族との関わり方とか色々興味を引いて止まない南米ひゃっふー(落ち着け)
マヤ文明もあるし、もう旅してみたくて仕方ないですジャングルとか高地の遺跡にたどり着く自信はとてもないけどorz
そんなインカの装束や土器色合いや形が何となく日本の縄文文化に近いような印象を受けました。親近感(笑)太陽神インティを崇めるというのも、それに連なる王を現人神のように祀るのも古代日本に通づるものがあったように感じます。うっかり金銀財宝テクがあったのが滅亡の原因ともなってしまいましたが、日本も銀は取れたんですよねー。
美しい、素晴らしい金細工、細かいところまで美しく小さく作られたお人形の衣装。生け贄のこどもに渡すそれへの、愛情というか多分神への畏怖、人の子としての憐れみ、そういうものを全部引っくるめた感情が伝わってくるようで切なくなりました。生贄は確かに今の自分たちにとっては残酷な制度だと思う。けれど野蛮な風習と切り捨てられるのかどうか、小さな人形の姿を見ていると考えてしまう。
リャマとトウモロコシが無双過ぎるとか、明らかに混じり合った後も『誇り』としてインカの名が人々の中に残っていたりだとか、まぁ色々考えさせられることはあったのですか・・・眼窩があんな感じで見えるご遺体に初めてお会いしたので、やっぱり一番、いちばん衝撃を受けました。生きていた、生きていたかった、そういうのが伝わるモノだったというか。
博物館に展示されているものは、その先にあるものも全て引っくるめて人間の生きた証なんだなぁ・・・とありがたくなります。


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